『成瀬は信じた道をいく』
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大津ときめき紀行2 びわ湖さんぽ
[レビュアー] 宮島未奈(作家)
2024年本屋大賞を受賞して話題の宮島未奈さんデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』。大ヒットとなった「成瀬シリーズ」の2作目にあたる新刊『成瀬は信じた道をいく』では、成瀬がびわ湖大津観光大使として大活躍する。なんと、今回はその成瀬が著者の宮島さんを琵琶湖周辺の名所巡りに連れて行ってくれるという! いったいどんな〈さんぽ〉となるのか? 宮島さんが寄せてくれたエッセイでその様子をのぞいてみよう。
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昨年三月に刊行したわたしのデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』(以下「成天」)は、めでたく十万部を突破した。これもひとえに読者の皆さまのおかげである。続編が読みたいとの声にお応えして、一月二十四日には『成瀬は信じた道をいく』(以下「成信」)が発売となる。
今日は新作の出版記念として、びわ湖大津観光大使の成瀬に大津を案内してもらうことにした。待ち合わせ場所はJR大津駅だ。成信のカバーイラストと同様、観光大使の衣装を着た成瀬が腕組みをして立っている。
「成瀬さん、おはようございます」
わたしが声をかけると、成瀬は「おう」と右手を挙げた。黒のラインが太く入った白いツーピースに、
「びわ湖大津観光大使」と赤文字で書かれたたすきが映えている。
「はじめまして、新潮社のOです。今日はよろしくお願いします」
大津市在住のわたしだけでは新鮮味がないため、小説新潮編集部のOさんにも来てもらった。
「成瀬あかりだ。大津へようこそ」
「京都から大津ってこんなに近いんですね」
Oさんは滋賀に来るのははじめてだという。
「JR琵琶湖線でわずか二駅だからな。さっそく滋賀らしい場所に案内しよう」
成瀬は大津駅のそばにある平和堂フレンドマートにわたしたちを誘導した。滋賀県内ではどの駅の近くにも平和堂があると言われている。県庁所在地の大津駅も例外ではなく、北口を右に出てすぐ平和堂のハトのマークが見える。
「これが大量に出ることでおなじみのアルコール消毒器だ」
成瀬が「余ったアルコールは顔につける」と発言して物議を醸したマシンである。手をかざすと、手のひらからあふれるほどの消毒液が噴出される。
「さっそく西川さんがいますね!」
手に消毒液を擦り込みながらOさんが言う。売り場に入る前の風除室の段階で、すでに西川貴教パッケージのお菓子が並んでいるのだ。西川さんは平和堂の特命GMを務めており、一時間に二回、西川さんの歌う平和堂テーマソングが店内に響く。
「それではミシガンに乗りにいこう」
「ええっ」
成瀬はあっさり外に出る。手を消毒するためだけに立ち寄った人になってしまった。また今度買い物しますと心のなかで謝って、フレンドマートを後にした。