『成瀬は信じた道をいく』
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『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈著
[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)
『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬が帰ってきた!
何でも軽々こなしながらまるで鼻にかけず、予想のつかない思考で我が道を行く成瀬あかり。滋賀県大津市膳所駅近くに住み、西武大津店閉店と聞けば夏休みを捧(ささ)げて通いローカル番組中継に映り、ゼゼカラ(=膳所から)という漫才コンビを組んでM―1に出るほど地元愛が強い成瀬。
いや、帰ってきたわけではない。少し成長して大学生になる成瀬は相変わらず飄々(ひょうひょう)として地元に暮らしている。私たちはその姿を目撃するのだが、成瀬が変わらないことを確認できるだけでなぜこんなに嬉(うれ)しいのか。「どうかしたか?」と成瀬に言われそうだ。
本作で成瀬は前作より少しだけ有名人になっていて、小学生の「弟子」ができたり、びわ湖大津観光大使に選ばれて、ゼゼカラの相方、島崎以外のパートナーができたりしている。彼らはみな、空気を読まない成瀬の型破りな言動に巻き込まれ、自分を縛る枷(かせ)からいつのまにか自由になる。観光大使のパートナー、篠原かれんが心の中で呟(つぶや)く「うちの成瀬はすごいでしょ」に共感しない読者はいまい。(新潮社、1760円)