『書を捨てよ、町へ出よう』
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青臭かった元青年にはたまらない! 没後40年記念の「完全復刻版」
[レビュアー] 都築響一(編集者)
神保町古書店街の端にある芳賀書店は成人向けの書籍やDVDに特化した「アダルトビル」であり……いっぽうで1960~70年代には新左翼系の版元としてラディカルな政治思想とアンダーグラウンド文化のリンクを模索していた。その芳賀書店が1967年に出版したベストセラーが寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』。このタイトルで遠い目になった読者には、没後40年記念の完全復刻版は一生「捨てられない書」になるはず。
短いエッセイを雑誌のように組んだこの本は、現代青年のタマの小ささを論じた冒頭の「青年よ大尻を抱け」から、片目の競走馬を愛しむ「片目のジャック」まで、半世紀以上経った現在でもまったく色褪せない瑞々しさと才気に溢れている。上から目線の正論を振りかざすのでもなく、背を丸めた皮肉の毒を吐くのでもない、武器としてのユーモアのちから。そして詩人ならではの、今風に言えばパンチラインの連打。こんなふうに文章を書ける評論家を、僕らの時代は持てているだろうか。
寺山が『書を捨てよ~』を書いたのはまだ天井桟敷を旗揚げする前だったし、装幀・イラストレーションを担当した横尾忠則も画家宣言以前のアングラ・スターだったし、写真の吉岡康弘が大島渚と組んで撮影監督を務めるのもこのころから。そういう世代のエネルギーがこの本には内的爆発のように詰まっていて、本文ページはもちろん、カバーもカバー裏も帯も、綴じ込み小冊子「私自身の詩的自叙伝」も、しおりがわりに付けられた1967年公演『毛皮のマリー』『大山デブコの犯罪』の復刻チケット(リソグラフ印刷)までも(!)すべてが60~70年代に青臭かった元青年たちにはたまらない存在感。でも僕としてはこの一冊は、コスパしか考えてない本があふれる、不幸な現代の若者にこそ見て、読んで、打ちのめされて、スマホを置いて町へ出てほしい。