急増する「並行世界SF」モノ、最新モデルはこれだ

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  • 僕が愛したすべての君へ
  • 君を愛したひとりの僕へ
  • 筺底のエルピス

書籍情報:版元ドットコム

急増する「並行世界SF」モノ、最新モデルはこれだ

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 ゲームなら何度でもリセットしていろんな選択肢を試せるのに、現実の人生はなぜ一回だけなのか。可能性の数だけ世界があってもいいじゃないか。

 ……というような認識が世間に広まったためか、時間ループや並行世界を導入した物語が急増。それらの共通項をゲーム的リアリズムと呼んだ東浩紀は、自身も、並行世界を背景とする量子論的な家族小説『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)を書いて三島由紀夫賞を受賞している。

 この6月、2冊同時に出た乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』 は、そうした並行世界SFとせつない純愛ストーリーを融合させた最新の例。

 背景は、無数の並行世界の実在が証明された未来。テーブルに置いたはずのペンがなくなったり、昨夜話したはずのことを相手が知らなかったり、日ごろ経験する些細な齟齬は、実はちょっとだけ違う並行世界との間を日常的に揺れ動いているせいだ─という発想が面白い。世界間の相対的な距離を測定する技術も発達し、生まれ落ちたゼロ世界からどのくらい離れた世界にいるか、手首の端末につねに表示される仕組み。

 2冊とも、主人公は同じひとりの少年だが、両親の離婚後、母親と暮らすか父親と暮らすかで世界が分岐し、恋をする相手も、その後の人生も大きく変わる。それぞれ独立した小説でありながら、表と裏というか、片方がもう片方の謎解きになっていて、両方読むことで理解が深まる。ラノベ度とロマンス度は『僕…』の方が高く、『君…』の方はSF的に大きくアクセルを踏み込み、相当ムチャなことをやってます。できれば2冊セットでどうぞ。

 一方、それとまったく違う形で並行世界を利用するのが、6月に第4巻が出たオキシタケヒコ『筺底のエルピス』(ガガガ文庫)。テロや無差別大量殺人を引き起こす“殺戮因果連鎖憑依体”(鬼や悪魔の正体)と闘う秘密組織を軸にした伝奇アクションのように始まった物語は、圧倒的なスケールの本格SFに飛躍する。これはすごい。瞠目。

新潮社 週刊新潮
2016年8月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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