中江有里「読書の楽しみは、読む前から始まり、読んだ後も続く」注目の三冊を紹介

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 2月16日放送のNHK総合「ひるまえほっと」に女優の中江有里さんが出演し「ブックレビュー」コーナーで言葉にまつわる三冊を紹介した。

 この日中江さんが紹介したのは、

『「罪と罰」を読まない』岸本佐知子 三浦しをん 吉田篤弘 吉田浩美[著](文藝春秋)

『「私」をつくる 近代小説の試み』安藤宏[著](岩波書店)

『ロゴスの市』乙川優三郎[著](徳間書店)

 の三冊。いずれも言葉をテーマにしており、脚本家、書評家としても知られる中江さんならではのセレクト。

『「罪と罰」を読まない』は翻訳家、作家、装丁家の4人が集まり、読んだことのない『罪と罰』について推理し、語り合う。その後みっちりと読みこんだ後に再度話し合うという画期的な読書会をまとめた本。中江さんは「非常に面白い試み。読む前の妄想も面白いし、読んだ後もそうそうそう、と笑ったりして、自分も参加しているような気分になった」と楽しそうに語った。読書の楽しみは読んでいる間だけではなく、読む前からはじまっており、本を閉じた後も続いて行くのだと考えさせられたと同書を勧めた。

『「私」をつくる 近代小説の試み』は近代小説で描かれる「私」とは誰なんだろうと探って行く一冊。“言文一致運動”からはじまった日本の近代小説は、「私」をいかに作り出すか、試行錯誤の連続だったという。川端康成の『雪国』冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」この有名な一文は主語がなくても、列車から「私」が眺めている景色だとわかりますよね、と中江さん。中江さん自身も小説を書く際、「私」という主語をなるべく使わずに書こうとしていると告白。日本語はそれでも誰が話しているかわかるんですよね、と「私」に注目して読むことの面白さを語った。また作者自身の人となりが良く知られている近代では、作者と主人公の「私」は同一の人物なのか、そう読んでもよいのか?それもひとつの問題だと指摘。中江さんは同書を小説を書く立場としても刺激的だったし、読む方としても近代小説の読み方が変わってくる一冊ではないか、と解説した。

『ロゴスの市』は二十歳で出会った二人の男女が共に英文学を学びながら、それぞれが「翻訳家」「同時通訳者」となり、愛し合い、戦い、すれ違う人生を描いた恋愛小説。中江さんは二人の会話を「知的でスリリング。まさに大人の恋愛小説」また「豊潤な文章。あらすじとは違った部分で読んでいる時間が濃密だった」と絶賛した。番組司会の山本哲也アナウンサーも「つかず離れずのもどかしい恋愛に、甘酸っぱい気持ちになった」と語った。そして「最後に明かされる事実もなかなか……」とネタバレを避けながらも、最後に大きな驚きが待っている事も明かした。

 いずれも言葉を題材とした作品を取り上げた中江さんは最後に「言葉を意識的に読みこんでゆくことにより、見ているものや感じるものが変わってくるのではないか、そんな三冊でした」と締めくくった。

「ひるまえほっと」はNHK総合で月曜から金曜11:05からの放送。「ブックレビュー」コーナーは月に一度放送される。

Book Bang編集部
2016年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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