『五つ星をつけてよ』
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周囲の反応に振り回される6人の主人公『五つ星をつけてよ』奥田亜希子
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
インターネットで買い物をすることが怖くなくなった。それは口コミコメントのおかげである。まず星がひとつのコメントを読み、つぎに五つ星のそれを読む。あとは自己責任で、外れたら新たに星ひとつに口コミを書き足すだけだ。
自分のことは信じられないから、人の判断を見てから決める。そういう人間には口コミは心の救いだ。本書に収められた6編の短編小説は、ネットの口コミだけでなく、近所の噂話や家族の反応などに振り回され右往左往する人たちが主人公だ。
自信がなく、美しい友人との友情を信じられない女子高生。
子どもたちが巣立ち、ブログを書くことだけが生きがいになった主婦。
元カノの結婚をSNSで知った優柔不断な男。
認知症の母の介護をしてくれるヘルパーさんに悩む娘。
大人を信用できない中学生。
家庭を持った元アイドルの日常。
ブログやSNSで語りかければ、誰かが返事してくれて、それは目先の指針にはなるけれど全部決めてしまえるほど世の中は甘いものじゃない。顔の見えない他人が書いた評価がどれほどの参考になるのか。知らない相手だから素直になれるけど、相手も素直だとは限らない。
頭では分かっているのだ、そんなこと。でも気になってしまうのが人情だろう。子どもに偉そうに諭している大人の方が人の顔色を窺(うかが)うものなのだ。
だからこの物語を読むと、胸の奥が痛くなる。思い当たる節にびしびし当たる。奥田亜希子という作家、目が離せない。