問題解決能力が低いのは、うつ気味のせいかもしれない

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自分の記憶力を高めたいと考えている人は多いと思います。記憶力は、私たちの活動には欠かせない能力ですし、記憶力が高いと、勉強や仕事でも有利な場面は多いでしょう。では、その記憶力は精神状態とも深く関わっていて、うつ傾向が強いと記憶力が低下することはご存知でしょうか。さらには、ビジネスでは必須の問題解決能力の低下にもつながるといいます。『記憶力を高める科学』の著者で、心理学博士の榎本博明さんに、うつ状態と記憶力や問題解決能力の関係について伺いました。

うつの人は具体的なエピソードを思いださない

 抑うつ傾向の強い人は、過去の想起が非常におおざっぱで、過去のエピソードを具体的に思いだすことができません。これを「超概括的記憶」といいます。

 たとえば、抑うつ状態の人に「やさしい」から連想される思い出を語ってほしいといっても、「祖母はいつもやさしかった」のように”概括的”に語ることはできても、祖母がどのようにやさしかったかを示す“具体的なエピソード”を思いだすことができません。

 抑うつと記憶傾向には深い関係があることがわかっています。

 過去のつらい体験を反芻する傾向のある人は、うつに苦しめられることが多くなります。また、過去の出来事を思いだしてもらう実験をすると、落ち込みやすい人は自分自身のネガティブなエピソードのほうが思いだしやすいという傾向が見られました。

 こうした傾向は、すでに幼児期からも認められます。

 5~11歳の幼児・児童を対象にした実験では、絵物語を読む際に、その主人公が自分自身であるかのように思って読むように求めたところ、抑うつ傾向の強い子どもたちは、ポジティブあるいはニュートラルな絵物語よりもネガティブな絵物語をよく思いだせたのです。

 うつ尺度の開発者として有名なベックの認知療法では、抑うつ傾向の強い人には、特徴的な認知の枠組みがあり、それがうつ状態を悪化させると考えられています。

 特徴的な認知の枠組みとは、自分の置かれた状況を悲観的にとらえたり、自分のネガティブな面にばかり目を向けたり、うまくいかないことがあると自分のせいにするなど、ものごとを否定的にとらえる認知傾向を指します。

 抑うつ傾向の強い人では、その特徴的な認知傾向ゆえに、過去と向き合ったとき、思いだす個々のエピソードは不快なものが多くなります。不快な出来事の詳細を具体的に思いだすと気分が落ち込み、それを避けるために、記憶の検索を一般的レベルで打ち切るのではないかと考えられるのです。


『記憶力を高める科学』p.28より

エピソード記憶の抑圧が問題解決能力を低下させる原因

 このようなメカニズムは、うつ傾向の人にとって不快な出来事を想起せずに済むというメリットにはなりますが、その反面、過去のエピソードを現在の問題解決に生かせないというデメリットになります。

 エピソード記憶のなかでも、特に自分にまつわるエピソードの記憶を「自伝的記憶」といいますが、自伝的記憶には問題解決を助ける機能があります。

◎こんなケースでは、こうやってうまくいった
◎こんなピンチは、こういうふうにしたら打開できた
◎似たような状況のとき、このようにしたら失敗して痛い目にあった
◎あの先生に相談したけどムダだった
◎あの上司はこのようなときに力になってくれた

 こういった個々のエピソードが行動指針を与えてくれるのです。

 自伝的記憶には、こういう状況で、こんなふうにしたら、こんな結果になった、というような具体的なエピソードがいっぱい詰まっています。そして、なにか問題に直面したときには、過去の似たような状況のエピソードをかき集めて、それを参考に、対応方法を考えることができるのです。

 うつ病を患うと一般的に問題解決能力が低下するといわれます。一方で、うつ傾向の人は、超概括的記憶をもち、具体的なエピソードの記憶が乏しいということがわかっています。そうすると、うつ傾向の人は超概括的記憶しかもっていない、つまりイヤな出来事を思いださないように具体的な過去のエピソードを抑圧しているため、問題解決能力が低いのではないかと考えることができます。

 このことを確かめるための心理実験も行われています。

 そこでは、自殺未遂を起こした患者たちを対象に、「引っ越してきたばかりの人が、友だちを求めている」というような社会的な課題を提示し、それを解決するための手段をあげさせました。同時に、感情語を手がかり語として自伝的記憶を想起する課題も実施し、そこで思いだされた出来事の具体性がチェックされました。

 その結果、想起された自伝的記憶の超概括性の程度が高い人ほど、問題解決のために有効な手段を考えることができないことがわかったのです。このように、具体的なエピソードを思いださないことが、目の前の課題への解決能力の低さにつながっていることが実証されています。

 うつ気味の人の情緒面に着目すると、気分が沈み、気力が乏しくなっており、冷静さも失っているため、問題解決がうまくできないということも、十分考えられます。しかし、このような実験結果を見ると、具体的なエピソードが乏しい超概括的記憶しかもたないことが問題解決を阻害している面もあることがわかります。

 この場合の超概括的記憶というのは、顕在化している記憶のことです。うつが治ると、記憶の抑圧が解け、潜在記憶に閉じ込められていた具体的なエピソードについての記憶が活性化され、問題解決能力も高まると考えられるのです。


『記憶力を高める科学』p.177より

SBCrOnline
2017年3月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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