生誕50周年を迎え、愛され描き続けられるキャラクター『超人ロック』|中野晴行の「まんがのソムリエ」第47回

中野晴行の「まんがのソムリエ」

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時空を超えて活躍する超能力少年
『超人ロック 完全版 (1) 炎の虎』聖悠紀

 東京・御茶ノ水にある明治大学米沢嘉博記念図書館で「聖悠紀 超人ロック生誕50周年展」が開催中(9月24日まで)だ。

 聖悠紀のSF超大作『超人ロック』がスタートしたのは1967年。1949年12月生まれの聖はまだ17歳。発表場所はみなもと太郎らも所属したマンガ同人「作画クループ」(代表・ばばよしあき)の肉筆回覧同人誌(印刷をしないで肉筆原稿を綴じて回覧する雑誌)『ストーリィ作品集』21集だった。
 タイトルは、イギリスの歌手・ドノヴァンの曲『狂人ロック』をもじったもの。主人公のロックは、伝説の超能力者で、テレポートやテレパシー、サイコキネシスといったお馴染みの超能力だけでなく、自らの肉体を構成する分子配列を変えることで女性にも子どもにもなることができる。さらに衰えた肉体を再生することで何度も若返り、永遠の生命まで手にしている。
 もちろん超能力者としてのパワーも破格で、戦った超能力者の得意技を自分の技にしてしまうという力まで持っている。

 まだコミケのような同人誌即売会はない時代。同人誌のほとんどは肉筆回覧誌で、読めるのは会員を含む狭いサークルだけ。それでも『超人ロック』の評判はマンガ家を目指す若者たちの間に口コミで広まっていった。
 その後、作画グループは1971年に「SAKUGA GROUP シリーズ」と銘打って第1話を第1巻、第2話を第2巻として、貸本マンガ出身の桜井昌一が経営する小出版社・東考社から単行本化。これにあわせて、第3巻が描き下ろされ、74年まで全5巻で完結した。これが「SGシリーズ」版。インディーズながら版を重ね、私も大学3年までに全巻を揃えた。
 1971年に聖は、『別冊少女コミック』にて読切作品「うちの兄貴」でプロデビュー。しかし、作画グループのばばよしあきは、聖の真価は少女マンガではなく、少年マンガのSF作品にあると考えて各少年誌に『超人ロック』を売り込んでいた。SGシリーズ版でマンガファンやSFマニアの間で、すでに人気は確立されたにも関わらず、なかなか掲載には至らず、ようやく1977年にサブカル系マイナー誌『月刊OUT』(みのり書房)の別冊『ランデブー』で、「新世界戦隊」の連載が決まり、『OUT』誌上でも特集が組まれた。
 『超人ロック』が少年誌に登場したのは1979年。少年画報社の『週刊少年キング』41号だった。その後、1988年12月まで連載され(途中82年4月に『週刊少年キング』は一旦休刊して月2回刊の『少年KING』に改題)、劇場アニメやOVA、ラジオドラマ、ノベライズなどさまざまなメディアミックスが行われる大ヒット作になった。その後も、『月刊OUT』やメディアファクトリー(現在はKADOKAWA)の『コミックフラッパー』、少年画報社の『ヤングキングアワーズ』などに舞台を移し、『フラッパー』と『アワーズ』の連載は今も続いている。

 単行本も数々出ているが、今回紹介する『超人ロック 完全版』には、『少年キング』連載分をメインに、カラーページまで含めて完全収録されている。
 ロック・サーガをたどると『少年キング』版は宇宙歴0001年(「インフィニット計画」第19巻収録)から宇宙歴1026年(「神童」第37巻収録)までが舞台になっている。これだけでも1000年を超えるオーダーの物語になる。
 作品は独立したオムニバス連載形式になっていて、短いものもあるが、単行本1~2冊がほぼ1話。ロックが現れる時代や場所はアトランダム。ロックの年齢もさまざまだ。

 第1巻に収録されている「炎の虎」の舞台は宇宙歴0287年の惑星マイア。ロックは少年の姿で登場する。星の領主・ゼノン公が乗った宇宙船を狙って宇宙海賊船「炎の虎」が放った流れ弾がロックが暮らしていたエナ市を直撃。街は壊滅して、ロックだけが生き残る。ロックは復讐のために犯人を追うが、宇宙海賊を裏で操っていたのは領主の甥・ヌールだった。一方、マイアで発見されたロックらしき人物を調査するためにはるばる地球からやってきた連邦軍情報局のマリアン・リュイス少尉は夜の街で謎の男達に襲われそうになる。
 ここまでで、初めての読者にもロックがどうのような存在なのか、概要がちゃんと分かるようになっている。
 女海賊で超能力者のアマゾナなど魅力的なキャラクターが登場し、物語は思わぬ方向に進んでいく。口封じのため、ヌールが「炎の虎」の乗組員たちに強力な細菌をばらまき皆殺しにしようと企てたのだ。己の欲望のためには他人の命など気にもかけない暴君ヌールと戦う孤高のロックがクールでかっこいい。同人誌時代からのロックファンも満足させる内容だ。
 無理に年代別に物語を追う必要は無い。好きなところから読んでも十二分に楽しめるSFアドベンチャーだ。

※「聖悠紀 超人ロック生誕50周年展」
会場:東京都千代田区猿楽町1-7-1
   明治大学米沢嘉博記念図書館1階企画展示コーナー
期間:6月9日~9月24日
開館:月・金 14時~20時
   土・日・祝 12時~18時

中野晴行(なかの・はるゆき)

1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。 2004年に『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。
近著『まんが王国の興亡―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』 は、自身初の電子書籍として出版。

eBook Japan
2017年6月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

イーブックイニシアティブジャパン

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