男ばかり2000人の修道生活は「苦行」なのか、それとも……? ギリシャ正教の聖地を訪ねたカメラマンのインタビュー

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「孤高の祈り ギリシャ正教の聖山アトス」より

 栗原美季さんがナビゲートするラジオ日本の「Hello! I, Radio」に写真家の中西裕人さんがゲスト出演し、8月に刊行した本と、同時期に開催された写真展について語り合った。

■まるで映画の中の風景

 中西さんは2014年から5回にわたり、ギリシャ正教の聖山、アトスを訪れ、取材、撮影を続けてきた。その成果をまとめた書籍『孤高の祈り ギリシャ正教の聖山アトス』(新潮社)を8月に刊行、9月には銀座で写真展「記憶 ~祈りのとき」を開催している。

 銀座の写真展を見た栗原さんは「これって、本当に現実の写真? 今ある風景なの?」と驚き、「映画の中の風景っていう感じでした」と感想を伝えた。

■日本人として初めて公式にアトスの撮影、出版を認められた

 出版社のスタッフカメラマンとして、10年以上、ファッションやコマーシャル写真を撮っていた中西さんが、なぜギリシャ正教の聖地を訪ねることになったのか? アトスという地名さえ知らなかったという栗原さんに、「僕もほんの数年前まで、知らなかったんです」と中西さん。ギリシャ哲学の研究者だった父親の影響で興味を持ち始めたのだという。

 今では正教会の司祭にまでなった父と共に、自身も洗礼を受けて初めてアトスに乗り込んだのが3年前のこと。父の助けと、アトスの修道士さんの献身的な協力のおかげで、本来撮影禁止のこの地で、日本人として初めて撮影、出版の許可を得ることができた。

■実際に見た修道士たちの生活

――いざ乗り込んで、実際に見た風景はどんなでしたか?

「本当に現実の世界なんだろうか……建物も、修道士たちの生活ぶりも、現実のものとは思えず、時空をさまようような、不思議な感覚に陥りました」

――修道士たちの生活は?

「1日7時間の祈りがあります。朝の4時から8時まで4時間。ごはんを食べて、それぞれ仕事したり休憩したりして、夕方4時から夜の7時ごろまで。祈ることが仕事というか……」

――みんなでいっしょに暮らしているんですか?

「大きな修道院では50人、100人で住んでいるところもあります。修道小屋というところで1人で住んだり、数人で暮らしている人もいます」

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「孤高の祈り ギリシャ正教の聖山アトス」より

■いちばん伝えたかったこと

 女人禁制で男ばかり2000人の修行の日々……、「これだけ隔離された世界で、いろんなことが制限されて、すごく厳しい生活というイメージを勝手に描いていましたが、写真を見ていると、修道士さんたちはとても穏やかで、素敵な表情をしていますね」本を見ながら栗原さんは言う。「風景もそうですが、修道士さんたちの表情を見ているだけでも、私はとっても穏やかな気持ちになりました。心がほろほろするような」

 中西さんも同じような「苦行」のイメージを抱いて乗り込んだと言うが、実際に行ってみると、意外にもみんなおおらかで、のびのび生きているような印象を受けたのだという。

「それを僕はすごく伝えたいと思った。祈りや信仰というものは決して強制されるものではなく、一人一人の神との対話であるということ。みんなでお祈りする時間があるんですけど、そこから抜け出して、一人でエーゲ海を見ながら何かを想ってお祈りしてもいい。強制は全然ないんですよ」

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「孤高の祈り ギリシャ正教の聖山アトス」より

■祈りとは人を想うこと

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日本人として初めて公式にアトスの取材を許された写真家の中西裕人氏。

 本来撮影禁止の場所だから、首席大臣の許可を得ていると言っても、「ダメだ」と怒られることもしばしばあった。一人一人の祈りの場に踏み込んでいくわけで、いちいち許可を得てから撮影した。「ちょっと盗撮っぽいのも中にはありますが」と中西さんは笑う。

 そんなふうに撮影を続けるうちに、ギリシャ正教の祈りというのは「人を想うこと」なのではないかと、中西さんは気づく。

「それって、宗教に関係なく、大切なことですよね」という栗原さんに、「だからこういう本を作ったんです。宗教の専門書ではなく、誰にでも読めるような、本当に大切なことは何かということを伝えることができたら、と思って」と中西さんは答えた。

「だからこそ、伝わってくる写真が、この一冊の中に詰まっていて、そこには中西さんの感じたこと、現実、想いなどもいろいろ記されているので、読み物としても楽しめます」(栗原さん)

 今後もさらにアトスの取材を続け、より深めていきたい――そんな中西さんの抱負で、インタビューは締めくくられた。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2017年10月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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