10人に1人は抱えている!? 他人事ではない「大人の自閉スペクトラム症」

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「自閉スペクトラム症」という言葉を聞いたことがある人は、結構いるかもしれない。テレビや新聞、雑誌などで取り上げられることが多いからだ。簡潔に説明すると、「従来は自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症などを含む広汎性発達障害と包括されていた各疾患を、知的レベルや特性に強弱はあるが、その基本的な特性は連続している(スペクトラムとは連続帯と訳される)と捉え直した概念」となる。この自閉スペクトラム症が、近年では成人後に初めて気付かれるケースも増えているというのだ。そこで「大人の自閉スペクトラム症とは決して他人事ではない」と声を上げ、2017年12月に『大人の自閉スペクトラム症』(SB新書)を出版した精神科医の備瀬哲弘氏に語っていただいた。

「自閉スペクトラム症」の特性は誰にでもある

 近年、「大人の自閉スペクトラム症」は臨床の現場でも増加傾向にあります。私は街の精神科医として仕事をしていますが、私のクリニックでも「自分は“自閉スペクトラム症”(以下、ASD:Autism Spectrum Disorder)ではないでしょうか?」と診察を求めてくる人が増えています。

 診察を受けに来る人に共通しているのは、“生きづらさ”を感じていることです。“生きづらさ”の原因を探し求める過程で、「ASD」に行き着いた人ばかりといっても言い過ぎではありません。

 ASDの特性は、必ずしも一目見ただけでわかるものではありません。そのため、「困っているなら理解したいとは思うものの、具体的にイメージすることがなかなかできない…」という声を聞くことがとても多いのです。

 これはもっともなことかもしれません。ASDの特性としては、空気が読めない、落ち着きがない、飽きっぽい、同じ失敗を繰り返す、極端なこだわりがある、後先考えずに動く、会議についていけない、ケアレスミスが多い、質問ができない、気が散りやすい、段取りが取れない、同時に作業ができない、といったことを挙げることができるからです。

 しかし、これらの特性は程度の差こそあれ、少なくとも1つは誰にでもあてはまることです。実際、ASDは10人に1人は該当する、という見方もあるくらいです。そのためほとんどの人が、心当たりのある人の顔を思い浮かべることができるかと思います。

 ではASDの人は、生きるうえで「どう困っているのか」「何が生きづらくさせているのか」、その一例として、40代男性会社員Aさんのケースを紹介します。

 Aさんは、幼い頃からみんなの輪に入って一緒に遊ぶということはほとんどなく、一人で静かに本を読んだり、プラモデルを作って遊んだりすることが好きでした。そんな調子で幼稚園の頃から学生時代にかけて生活をしてきました。その傾向は成人して会社勤めをするようになった今でも続いています。

 ここまでなら、「自分にも似たような面があるなあ…」と思う人は、決して少なくないと思います。

 ところが、Aさんは新人の頃から、会社の飲み会や上司の誘いは、いつも何かしら理由をつけて断ってきました。「お前、そんなのサラリーマンとして通用しないぞ!」といつも叱られていたようですが、Aさんは叱られてもあまり気にしないタイプです。それでも、きつく注意されたりすると、それなりに悩むこともあったようです。

 このことについてAさんは、私に次のように話してくれました。

「他人と何か根本的に違うところがあるのではないか、もしくは、どこかおかしいのではないか、社会人として失格なのではないかと…。飲み会の誘いを断り続けている自分を責めて落ち込むことが最近はあります。そういう人生はとても生きづらいんです。いろいろと調べて、今では、もしかして自分は『ASD』なのではないかと思っているのです」

「さすがに上司からの誘いを、毎回断ることはしないけど、本音を言うと、Aさんのように断ることができたらと思うこともあるなあ…」
「基本的には自分にも同じ傾向があるような気がするなあ…」
 と思う人も、決して少なくないでしょう。

 このようにASDの特性とは、私たちにまったく関係ない“他人事”ではないのです。
 また、この問題は誰もが身を置く環境によって、たとえば、職場が飲み会を含めた他者との付き合いを重視する環境であればあるほど、「そんなんじゃ、うちでは通用しないぞ!」と、私たちの誰もが言われてしまう可能性も高くなるのです。

 このように、ASDの特性について、私たちの誰もが、「自分と無関係ではない」という意識を持つべきなのです。

SBクリエイティブ
2017年12月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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