多摩美術大学出身のアイドル・夢眠ねむさんが、長年の夢だった「ブックデザイナーになりたい」という願いを叶えた。
デザインを担当したのは、発売になったばかりの自著『本の本 夢眠書店、はじめます』。夢眠さん本人が出版業界のプロフェッショナルたちを訪ね歩いたルポの単行本化に際して、そのデザインワーク(装幀)を手がけることに。これまで美術作品の個展を開いたり、Tシャツやぬいぐるみ、雑貨などをプロデュースしたことはあったが、本のカバー、ページのレイアウト、造本といった商品の細部まで関わるのは初めてだという。
仮フランス装は文芸っぽい
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- 本の本 : 夢眠書店、はじめます
- 価格:1,650円(税込)
ブックデザインに関してビギナーの夢眠さんをサポートしたのは、本の版元、新潮社の装幀部に在籍する、黒田貴と二宮由希子の2人。特に部長の黒田は夢眠さんと同じ多摩美術大学の先輩にあたり、具体的な装幀のテクニックを後輩にアドバイスすることになった。
神楽坂の新潮社を訪れた夢眠さんが、まず2人と打ち合わせを始めたのは造本である。製本方式や紙、つまりモノとしての本の方向性を決める、重要な作業だ。
二宮 「文芸っぽくしたい」というねむさんのイメージに合わせて、いくつか見本を持ってきました。まずは造本ですが、新潮社では「クレスト装」と言われている「仮フランス装」はいかがでしょう。
黒田 (略)表紙を折りたたんで作る、ヨーロッパの伝統的な製本方式の簡易版です。ハードカバーとソフトカバーの中間のような印象になります。
夢眠 かっこいい!!(略)
二宮 カバーの色をねむさん色(「でんぱ組.inc」での担当色)のミントグリーンにすることもできますが……。
夢眠 そのまま白い方がいいですね。アイドルとして、というよりもかっこよく作りたいです。(『本の本』より)
本文を印刷する紙は、夢眠さんが実際に手で触れ、めくった時の指に残る質感や本の重さ、ページの開き具合を丁寧に確かめて、日本製紙の「オペラクリアマックス」に決定した。
印象は書体で大きく変わる
造本だけでなく、夢眠さんは本全体に「文芸っぽさ」を求めた。そこには、ファンが欲しがるアイドルのグッズではなく、本好きの読者が手に取りたくなるような装幀にしたいという、彼女の強い意思を感じる。
本文の書体を決めるときにも、こんなやりとりが。
二宮 今回は例として文芸作品でよく使われる2種類の書体で見本を組みました。「秀英明朝」と「イワタ明朝体オールド」です。
夢眠 書体で印象が変わりますね。秀英体はすらっとして見える。「な」とかひらがなの丸い部分が全然違いますね。イワタもクラシックな雰囲気で……どっちもいいなあ。
二宮 イワタは活版を元にした書体でレトロなかわいさがあります。秀英体は芥川賞をとった作品などにもよく使われている「新潮社の文芸」としておなじみの書体です。
夢眠 うーん……決めた。秀英体にします。読みやすいし、文字の連なりがこっちの方が好きです。
他にも、夢眠さんがレタリングで書いたタイトル文字、意外な場所に印刷した蔵書印、唯一アイドルらしさを加味したスピン(しおり紐)など、読者はその細部に気づくと楽しいに違いない。
駆け出しのブックデザイナーが手がけたデビュー作。そこに込められたこだわりを、ぜひ書店で手にとって確認していただきたい。
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