【話題の本】『仙境異聞・勝五郎再生記聞』平田篤胤著、子安宣邦校注

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■世にも奇妙なヒットのわけ

 江戸期の古文で書かれた、解説含め430ページに及ぶ岩波文庫の青帯。およそベストセラーとは縁遠そうな本が、なぜか売れている。

 文政3(1820)年、江戸に突如現れた15歳の少年、寅吉。幼い頃に天狗(てんぐ)に連れ去られ、ずっと異界で修行していたという彼が話す仙界、幽境の様子を、すでに一家をなしていた国学者、平田篤胤(あつたね)が詳細に書き留めたのが本書『仙境異聞(せんきょういぶん)』。諸々の質問に「人の魂は善にも悪にも凝り固まれば消えない」「天狗界に碁はあるが将棋はやらない」といった調子で次々と答えていくのが面白い。

 平成12年に文庫化され、23年の5刷を最後に長らく品切れ状態だったが、今年2月にツイッターで「『江戸時代に天狗に攫(さら)われて帰ってきた子供のしゃべったことをまとめた記録』があってそれがめちゃ面白い」「天狗じゃなくて宇宙人じゃないか」と詳しく紹介されて再注目。通販サイト「アマゾン」での古書価格が一時、数万円に高騰する事態となり、同月中に岩波書店が6刷を決定。現在、10刷約3万部まで伸びている。

 版元の担当者も「こういう形の増刷は初めてです」と当惑する、あまりにも不思議なヒット。まさに、天狗の仕業か。(岩波文庫・1070円+税)

 磨井慎吾

産経新聞
2018年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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