「意識高い系」が田舎で自滅……移住に失敗する人の特徴【限界集落・中規模町村・地方都市、成功と失敗の分かれ目】

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


移住に失敗する人、成功する人(写真はイメージ)

 富山県や大分県、鳥取県などに移住する人の数が過去最多を更新している。長崎県五島市によると九州最西端の島・五島列島は、年間約200人の移住者がおり、そのうちの7割が30代以下の若者だという。

 各自治体では移住者のための相談会が開催されているほか、移住者に対する助成や補助金、子育て支援事業など手厚い支援が受けられ、こうした取り組みが移住を後押ししているとみられる。

 また、テレビ朝日の番組「ニッポンのココからココ! 移住した女たち」(不定期放送)など、移住者をテーマにした番組も制作されており、関心も高まっていることがうかがえる。最近では、5月28日にバラエティ番組「その他の人に会ってみた」(TBS)が放送され、都会を捨てて田舎で暮らす女性の生活を追っている。

 その番組で紹介されたのが、横浜から福岡県糸島市に移住した畠山千春さん(33)だ。畠山さんは、埼玉県入間市生まれ。中学、高校と地元で過ごし、卒業後は東京都内の大学へ進学。1年間の留学を経て、横浜のベンチャー企業に就職するも6年後に退職、糸島市へ移住することを決めた。現在はパートナーとシェアハウスを運営しながら、自給自足の生活を送り、理想を実現している。

地方都市・中規模町村・限界集落 移住の成功と失敗の分かれ目

 しかし、一方で「移住先で孤立した」「思っていた場所とは違った」など移住先で苦悩する声もあり、移住に躊躇する人も多い。当たり前のことだが、移住にはデメリットもあり、それなりのリスクが伴う。そこで畠山さんなど多くの移住者に取材し、書籍『移住女子』を刊行している「灯台もと暮らし」元編集長の伊佐知美さんに、移住に失敗する人と成功する人について聞いた。

「結局のところ、移住の成功と失敗の分かれ目は人それぞれ。移住者自身の人柄や、移住後の振る舞い方などもある。しかし、たくさんの事例を見てきて感じるのは、やはり場所選びと、しっかりした下調べの有無が大きく影響しています。
 地方都市へのIターン、地元へのUターン、中規模都市へのJターン、田舎、限界集落へのIターンなどなど、移住の方法や移住先の規模によっても大きく異なる。
 また、移住者呼びこみに積極的な自治体でも、移住者第1号なのか、それとも移住者の先輩や地域おこし協力隊の卒業生がたくさんいる段階なのかなど、移住に対する成熟度によっても状況が変わります」(伊佐)

 移住後に理想的な生活を実現できる人は、下調べに多くの時間を費やしている、と伊佐さんは言う。糸島市に移住した畠山さんも、その前段階で千葉県いすみ市に引っ越し、農作業技術の習得や狩猟免許の取得、独立後の働き方など、少しずつ準備していくことで移住を実現した。

 畠山さん曰く、「スライド式移住」。土地の二段階移住だけではなく、働き方や暮らし方も、少しずつ変えていくスタイルだ。では、地方や限界集落などの移住先で失敗しやすい人はどんな人なのか?

移住に失敗する人の特徴とは?

「どんな人が失敗しやすいのかというと、移住の理想像を固めすぎ、それを知らず知らずのうちに周囲に押し付けてしまう人です。
 たとえば地域との関係を築く前の段階で持論を展開してしまい、結果として孤立し、地域から出て行ってしまう人。あるいは『田舎でカフェ(ショップ)経営が夢だったんです!』とキラキラした目でやってきて、既存の起業マニュアルを真似した結果、集客が上手く行かず、意気消沈し店をすぐにたたんでしまう人などです。
 あとは『ただのんびりと暮らしたいだけだし』と地域の大切にしている行事やまつりごとに全く無関心・無参加な人も、地域との関わりが薄くなり、孤立してしまうことが多いようです」(伊佐)

 伊佐さんの話によると、地域の特性を理解しないまま移住し、自己中心的な振る舞いによって地域住民から敬遠されたり、地域性に合わない経営になってしまったりして自滅していくパターンがあるという。

おすすめは「二段階移住」

「ただ、移住先が地方都市なのか、中規模町村なのか、限界集落なのかなどによって大きく異なります。移住することによって自分は何を実現したいのか、どんなライフスタイルが送りたいのか、そして検討している移住先にはその希望が叶えられそうな土壌があるのか、といったことをできる限り事前に考え、調べることが大切です」(伊佐)

 と伊佐さんは様々な移住者を取材した経験を活かしてアドバイスする。また、伊佐さんが著書『移住女子』で取材した、地方創生を担当する、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長の頼あゆみさんも前述の畠山さんのような「二段階移住」を勧めている。

「東京圏への人口流入は、実は地方の大都市からが多いというデータがあります。2015年であれば、上位から札幌市、仙台市、大阪市、名古屋市、福岡市といった具合です。たとえば東北であれば、青森、秋田などの近隣5県から仙台に人が集まり、その仙台からは東京圏へ人口が移っていくという流れがあるのです。一方、肌感覚ですが、東京圏からの移住は、この流れを逆にたどっている方が多いような気もします。最終的に東北の田舎に移住したいのであれば、まずは仙台や新潟など地方都市へ。そこでしばらく生活しながら、週末や休暇を利用してさらに自分に合ったところを探して、最終的な定住先を見極めるというやり方が、遠回りなように見えて、実は良いステップだったりするのではないでしょうか」(頼)

 事実、伊佐さんが取材してきた移住女子たちも、この二段階移住を勧める人、実践していた人が多い。まずは今のライフスタイルを維持できる町を選び、そこからさらに移動したければより田舎を選ぶ。それにより、暮らしの変化によるギャップが埋められる、と移住女子たちは語る。場合によっては、地方中核都市の半都市・半田舎的な暮らし方が肌に合ったら、そこにとどまってもよいだろう。移住後、就職を考えている人は、限界集落よりも就職先が見つかりやすいというメリットもある。

 移住は人生を決める大きな決断だ。人によっては後戻りできず、苦しむことになるかもしれない。気に入った土地がもう見つかっているなら、直接移住してもいいだろう。しかし、漠然とこのあたりの地方に住みたいという気持ちはあっても、具体的な地域まで決断しきれずにいる移住予備軍は、「地方中核都市」→「希望の地域」という、二段階移住を視野に入れてみると、移住がしやすくなるかもしれない。

伊佐知美(イサ・トモミ)
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学国際総合科学部卒。編集者・ライター。(株)Wasei所属。これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」元編集長。日本全国、世界中を旅しながら取材・執筆活動をしている。オンラインサロン「編集女子が“私らしく生きるため”のライティング作戦会羲」主宰。
伊佐知美 | note
ウェブメディア「灯台もと暮らし」

新潮社
2019年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社新潮社のご案内

1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「新潮」「芸術新潮」「週刊新潮」「ENGINE」「nicola」「月刊コミックバンチ」などの雑誌も手掛けている。

▼新潮社の平成ベストセラー100 https://www.shinchosha.co.jp/heisei100/