大名倒産(上)(下) 浅田次郎著

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大名倒産 上

『大名倒産 上』

著者
浅田 次郎 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163911397
発売日
2019/12/06
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大名倒産 下

『大名倒産 下』

著者
浅田 次郎 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784163911403
発売日
2019/12/06
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大名倒産(上)(下) 浅田次郎著

[レビュアー] 清原康正(文芸評論家)

◆財政破綻…跡継いだ末息子は

 幕末期、諸大名たちは深刻な財政危機に直面していた。越後丹生山(にぶやま)三万石松平家の財政も挽回不能の状況だった。

 借金総額二十五万両、年間の支払利息三万両、この数年の歳入はせいぜい一万両。利息分だけで借金は増えていく。そこで第十二代当主は、末息子に家督を譲って隠居し、倒産による改易で御家幕引きをたくらむ。改易の責任は第十三代に腹を切らせればよいと考えてのことであった。

 第十三代当主となった松平和泉守信房は先代が下働きの娘に手を付けて生まれた子で、江戸下屋敷で足軽・間垣作兵衛の子として育ち、九歳のときに先代の実子として認知された。ところが、家督を継ぐはずだった長兄の急死で次兄と三兄ではなく、二十一歳の四男にお鉢が回ってきた。

 物語は、文久二年(一八六二)八月一日に始まり、財政破綻の実情を初めて知った和泉守の苦闘や初めてのお国入りの様子などが描かれていく。幼なじみの近習たち、二人の国家老、さる大名家の勘定方だった浪人、領内の豪農・仙藤本家に大黒屋、鴻池、三井越後屋などの豪商の助勢を得て、窮地を乗り切っていこうとする和泉守の奮闘ぶりと並行して、先代の思惑も点描されている。

 また、和泉守と二人の兄との交流模様、養父の川役人としての一途(いちず)な思いなど、心温まるエピソードも抜かりなくちりばめられており、人情小説の温かみを添えている。

 そして、何と言っても驚かされるのは、貧乏神、七福神、死神がにぎやかに登場してきて、松平家に宝船をもたらすことになる経緯である。神々のキャラにひと捻(ひね)りがこらされており、春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)とした気分を味わうことができる。

 親世代の負債を押し付けられた次世代という設定は、経済問題や環境問題を抱える現代の日本ばかりではなく、世界的なグローバルな観点から見ても、身にしみて迫ってくるものがある。それだけに、物語のラストで描かれる赤ん坊のほほえみにぬくもりを感じてしまう。おもしろおかしく、時に涙ぐませる起伏の巧みさを楽しむことができる。

(文芸春秋・各1760円)

 1951年生まれ。作家。著書『鉄道員(ぽっぽや)』『終わらざる夏』『帰郷』など多数。

◆もう1冊 

 土橋章宏著『引っ越し大名三千里』(ハルキ文庫)。成功するのか国替え。

中日新聞 東京新聞
2020年2月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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