第20回本格ミステリ大賞が発表 『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

文学賞・賞

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 第20回本格ミステリ大賞が27日に発表され、小説部門に相沢沙呼さんの『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』(講談社)、評論・研究部門に長山靖生さんの『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』(河出書房新社)が選ばれた。

 小説部門の受賞作『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』は、推理作家の香月史郎と霊媒師の城塚翡翠が、女子高校生連続殺人事件を解決していくミステリー小説。霊視と論理が補完しあう特殊設定推理の連作で、随所に散りばめられた伏線が多くの読者を唸らせ、「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「2019年ベストブック」の国内年間ミステリーランキングで3冠を達成。本屋大賞や吉川英治文学新人賞の候補作にも選ばれた。

 文芸評論家の円堂都司昭さんは、本作について「本来、謎解きを主眼とする推理小説は、合理的な内容であるべきだ。しかし、霊、超能力といった非合理なものを登場させつつ、超常現象がどのようなルールで起きているかを作中で示し、合理的な推理小説として成立させる手法もある。そうした特殊設定で書かれた推理小説は、本作も含め最近は少なくない。ただ、ここで作者はさらなるひねりを加えており、よくぞ仕組んだものだと思う。この驚きこそ魔法のようだ」(小説宝石・書評)と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/591343

 著者の相沢さんは1983年埼玉県生まれ。2009年に『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2011年に『原始人ランナウェイ』が第64回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作、2018年に『マツリカ・マトリョシカ』が第18回本格ミステリ大賞の候補作となる。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化が発表された。

 評論・研究部門の受賞作『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』は、1920年代に勃興・隆盛するモダニズム文学と探偵小説の文学シーンを怪奇、犯罪、科学といったテーマを軸に、戦間期日本の想像力を問い直す評論。

 文芸評論家の郷原宏さんは、本作について「乱歩作品に顕著な猟奇性や耽美性は、これまで乱歩自身の性癖に由来するものと考えられてきたが、本書を読むとそれはむしろモダニストの共通感覚ともいうべきもので、川端康成、横光利一、堀辰雄、萩原朔太郎などにも共有されていたことがよくわかる」と触れ、「本書は創成期ミステリーに関する該博な解説書というにとどまらず、広く日本近代文学史に一石を投じる労作といっていいだろう」(中日新聞・書評)と評している。
https://www.bookbang.jp/review/article/591244

 著者の長山さんは、1962年茨城県生まれ。評論家、歯学博士。SFファンとアニメファンが未分離だった頃から評論活動を始め、『偽史冒険世界』で大衆文学研究賞を受賞。2010年に『日本SF精神史』で日本SF大賞と星雲賞をW受賞。以後2016年まで日本SF大賞選考委員を務めた。

「本格ミステリ大賞」は、本格ミステリ作家クラブが主催する推理小説を対象とした文学賞。同賞は、2001年より本格ミステリというジャンルの発展のため、年間の最優秀作品(小説部門、評論・研究部門)を表彰している。

 贈呈式は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて延期が決定。開催については、代替方法が検討されている。

 第20回の候補作は以下のとおり。

【小説部門】
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』相沢沙呼[著]講談社
『教室が、ひとりになるまで』浅倉秋成[著]KADOKAWA
『或るエジプト十字架の謎』柄刀一[著]光文社
『紅蓮館の殺人』阿津川辰海[著]講談社タイガ
『滅びの掟 密室忍法帖』安萬純一[著]南雲堂

【評論・研究部門】
『モダニズム・ミステリの時代 探偵小説が新感覚だった頃』長山靖生[著]河出書房新社
『シャーロック・ホームズ語辞典』北原尚彦[文]えのころ工房[絵]誠文堂新光社
『探偵が推理を殺す』小田牧央[著]the lomg fish/Amazon kindle
『短編ミステリーの二百年1』小森収[編]東京創元社
『江戸川乱歩新世紀 越境する探偵小説』石川巧・落合教幸・金子明雄・川崎賢子[編]ひつじ書房

Book Bang編集部
2020年6月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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