テレワーク導入で失敗しないための「7つの手順」――労務管理・ICTツール・セキュリティ対策……労務担当者が留意すべきこと

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コロナ禍で注目されるテレワーク。事業者にとって生産性の向上やコスト削減などを期待できる反面、勤怠管理や人事評価、セキュリティ対策、コミュニケーションの難しさなどが指摘されています。こうした労務担当者を悩ます課題が出てくるたびに、思いつきで対応するのも効率的ではありません。では、どうすればよいのでしょうか。テレワークの制度設計や労務管理などに詳しい弁護士の川久保皆実さんに、テレワーク導入に際して留意すべきポイントを伺いました。

※本稿は『これならわかる テレワークの導入実務と労務管理』をもとに一部抜粋・再編集しています。

テレワーク導入の流れをつかむ

柔軟な働き方の1つのかたちとして「テレワーク」が普及してきました。テレワークは「tele = 離れた」と「work = 働く」を合わせた造語で、インターネットなどICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所の制約を受けずに働くことから、在宅勤務だけでなく、リモートワーク、モバイルワークなどとも呼ばれます。

時勢柄、自社にもテレワークを導入したいけれど、何から手をつければよいかわからないという方は少なくないでしょう。労務管理、ICTツールの活用、セキュリティ対策など、検討すべき課題は多岐にわたり、従来のやり方だけでは通用しないことがいろいろあります。自社に合ったテレワーク体制を築くには、さまざまな知識やノウハウを総動員しなくてはなりません。

私自身、10年以上テレワークを実践するとともに、取締役として参画する中小企業においても、全社員完全在宅勤務への移行を実現させました。こうした経験をふまえ、これから「テレワークを導入したい」あるいは「現在の制度を見直したい」という方のために、必要な手順と留意すべき点をお話しします。まずは、テレワーク導入の流れをざっくりとつかんでおきましょう。

〔テレワーク導入の流れ〕

手順(1) 推進体制の構築

↓ ……テレワークを推進するためのチームを作ります。

手順(2) 基本方針の策定と従業員への周知

↓ ……導入目的、対象者、対象業務、実施頻度などを周知します。

手順(3) 労務管理方法の決定

↓ ……就業上のルールを設定し、テレワーク勤務規程に定めます。

手順(4) ICT環境の整備

↓ ……利用端末やシステム方式を決定し、業務環境を整えます。

手順(5) セキュリティ対策

↓ ……情報漏えいなどリスク対策を施し、社内規程を定めます。

手順(6) 業務管理・人事評価の手法検討

↓ ……テレワーク時の業務管理や評価方法を検討します。

手順(7) 教育・研修

↓ ……導入ガイダンスを全社的に実施し、協力体制を築きます。

テレワーク運用開始(またはトライアル開始)

必要な手順と留意すべきポイント

では、テレワーク導入の流れに沿って留意すべきポイントをみていきましょう。

手順(1) 推進体制の構築

テレワーク導入を円滑に進めるためには、全社一丸となった体制づくりが重要です。具体的には、経営トップが中心となり、経営企画、人事・総務、情報システムなどの各部門やテレワーク導入対象部門の代表者などをメンバーに加えて、社内横断的なチームを作ります。

手順(2) 基本方針の策定と従業員への周知

推進メンバーを集めたら、導入目的、対象者、対象業務、実施頻度などを盛り込んだ基本方針を策定しましょう。基本方針は、テレワークの方向性を決める重要な羅針盤となります。経営トップは、自分の考えのみを押し通そうとせず、メンバーの意見によく耳を傾けて、自社に合ったテレワークの方針を模索する必要があります。基本方針がまとまったら、全従業員に周知します。

手順(3) 労務管理方法の決定

テレワーク勤務者について、労働時間管理や労働安全衛生対策などをどのように行うかを決め、決定内容をテレワーク勤務規程に定めます。

なお、労働基準法上、労働時間は「原則として1日8時間・1週40時間以内」とされていますが(いわゆる通常の労働時間制度)、それ以外にも一定の要件や手続きを満たせば、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、変形労働時間制、裁量労働制といった特殊な労働時間制度を適用することも可能です。

テレワークと親和性が高いのは、フレックスタイム制と事業場外みなし労働時間制です。フレックスタイム制を適用すれば、働く場所のみならず働く時間帯についても柔軟にすることができます。また、テレワークで労働時間を算定することが困難なときは、事業場外みなし労働時間制を適用して一定時間働いたものとみなすことも可能です。

現在、通常の労働時間制度を適用している企業においては、テレワーク導入を機にフレックスタイム制に移行するかを検討したり、テレワーク時のみ事業場外みなし労働時間制を適用できないかを検討する必要があります。

手順(4) ICT環境の整備

テレワーク環境で利用する端末やシステム方式を決定し、必要なICTツールを導入します。たとえば、利用端末としては、大きく分けて「リッチクライアント型PC」「シンクライアント型PC」「タブレット型PC/スマートフォン」の3種類があります。また、主なシステム方式として「リモートデスクトップ方式」「仮想デスクトップ方式」「クラウド型アプリ方式」「会社PCの持ち帰り方式」の4つがあります。

このほか、著者の経験上、中小企業がテレワークを導入する場合は、「電子メールツール」「チャットツール」「ウェブ会議ツール」「カレンダーツール」の4つは最低限用意しておきたいところです。さらに、テレワーク勤務者の業務管理や労務管理をラクに行いたいなら、「タスク管理ツール」「勤怠管理ツール」も活用するとよいでしょう。

手順(5) セキュリティ対策

テレワーク環境で情報漏えいなどの事故が発生しないよう、リスク対策を施し、社内セキュリティ規程を定めます。総務省や内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)などが公開しているガイドライン等も参考にしてみてください。

すぐに思いつくのは、PC等の紛失防止やPCモニターの覗き見防止など、テレワーク勤務者の側で気をつけるべき物理的な対策が多いことと思います。しかし、それ以前に企業として講じなければならないのが、アクセス制限やハードディスクの暗号化などの「技術的なセキュリティ対策」です。

そして、定期的に状況をチェックし、必要に応じて対策を見直したり、規程を修正することも大切です。とくに、コロナ禍の緊急対策としてテレワークを導入した企業は、今後に備えて、規程類を見直す必要があるかもしれません。「そもそも何をすればよいのかわからない」という場合は、どんな対策があって何ができるのかを知るところから始めましょう。

手順(6) 業務管理・人事評価の手法検討

業務プロセスが見えづらいテレワークにおいて、業務管理や人事評価をどのように行うか検討します。これまで、オフィスでの口頭のやり取りだけで何となく業務進捗を把握してきた企業では、テレワークになった途端、業務管理に支障が生じたというケースも少なくありません。まず、自社の状況を把握したうえで、必要に応じて、やり方を見直しましょう。

手順(7) 教育・研修

経営トップが意気揚々とテレワークを導入したのはよいけれど、結局あまり使われずに制度が自然消滅してしまったという話を聞くことがあります。これはそもそも、制度設計自体に問題があったか、または従業員への教育が不十分で、制度内容やICTツールの利用方法が理解されておらず、テレワークがうまく浸透しなかったことが原因のようです。

せっかくテレワークを導入しても、従業員に使ってもらえなければまったく意味がありません。手順(2)~(6)でしっかり制度設計をしたうえで、従業員への教育も抜かりなく行う必要があります。その際、テレワーク対象者だけでなく、その上司や同僚など周囲の人たちも含めて教育・研修を実施し、互いの理解や支援を得られるようにすることが重要です。

習得してもらうべきポイントは、「テレワークの目的・必要性を理解する」「テレワーク時のルールについて理解する」「ICTツールを操作できるようになる」の3つです。

スタート時期を決めて準備を

テレワーク導入の実現性を高めるには、スタート時期を決めておくことも大切です。タイムリミットが明確になれば、そこから逆算して準備に必要な時間を割り出すことができます。推進メンバーのお尻に火をつけるという意味でも、スタート時期の設定は非常に重要ですので、各メンバーの意見や社内状況をふまえて、現実的なスケジュールを立ててください。

テレワークを本格的に導入する前に、3か月~6か月程度のトライアル(試行)期間を設けてもよいでしょう。週1~2回でも実施すると、課題が浮き彫りになることがあります。検証のうえ、改善や修正をしながら、自社に合った制度にしていきましょう。

*本稿は、2020年9月1日現在の法令等に基づいています。

著者プロフィール:川久保 皆実(かわくぼ みなみ)

茨城県つくば市出身。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修了。ITベンチャー企業での企画営業職を経て弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。以後、主に企業の働き方改革と労務トラブルの予防に取り組む。日本テレワーク学会の会員としてテレワークの労務管理についての研究を重ねるほか、テレワークの労務管理のためのクラウドシステム「Log+(ログタス)」の開発にも携わる。

日本実業出版社
2020年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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