【話題の本】『老人支配国家 日本の危機』エマニュエル・トッド著

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■少子化という真の脅威

日本にとって最大の危機は、安全保障政策より少子化と人口減少にある―。世界的知性として知られる歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏による、主に近年の日本に関する論考や対談を集めたのが本書。11月に初版3万部でスタートし、現在3刷6万部と非常に好調だ。

トッド氏の議論の核となるのは5類型に大別される人類の家族構造で、各地域の宗教やイデオロギーも実は家族構造で規定されるとする。日本はドイツなどと同じく長子相続が特徴の「直系家族」に分類され、世代間継承の重視や教育熱、規律正しさといったキャッチアップ局面で役立つ特徴を持つが、社会が安定すると硬直性や少子化という短所が目立ってくる。老人支配の度合いも強まるため、日本は今回のコロナ禍で「『高齢者』の『健康』を守るために、『若者』と『現役世代』の『生活』に犠牲を強いた」と辛辣(しんらつ)だ。

人口減の解決策としては少子化対策とともに移民も避けられないが、実質的な隔離政策につながる英独の多文化主義ではなく、仏流の同化主義を時間をかけて寛容に行うべきだと説く。人口と家族構造という2つの観点からロジカルに解を導き出すトッド節は健在だ。(文春新書・935円)

磨井慎吾

産経新聞
2021年12月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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