<東北の本棚>歴史の深層 呼び起こす

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日本の地名詩集 ―地名に織り込まれた風土・文化・歴史

『日本の地名詩集 ―地名に織り込まれた風土・文化・歴史』

著者
金田久璋 [編]/鈴木比佐雄 [編]
出版社
コールサック社
ISBN
9784864354943
発売日
2021/08/30
価格
1,980円(税込)

<東北の本棚>歴史の深層 呼び起こす

[レビュアー] 河北新報

 名前はさまざまな思いを込めて付けられる。人名はもちろん、地名もそうだ。本書を出版したコールサック社(東京)代表の鈴木比佐雄氏によれば、地名は「多様な記憶の宝庫」。だから、地名を入れて詩を創作することはその地で生きた人々の歴史や文化の深層を呼び起こすという。

 本書は、地名を織り込んだ、142人の珠玉の詩を集め、地域別に分けて収録。東北・北海道の章では、宮沢賢治、高村光太郎、寺山修司から、現在、第一線で活躍する詩人まで28人の作品を取り上げる。

 東北の自然環境は厳しい。だが、その中には人を包み込む温かさもある。それを象徴するのが山。山形市出身の農民詩人真壁仁は、蔵王を慈しみのある母、いかめしい父に例え、賛歌をささげる。他の詩人たちも岩手山や五葉山などを題材に創作。地元の山に対する深い愛情を感じさせる。

 歴史を主題にした詩も印象深い。東北は苦難の歴史を歩んできた。そのルーツである蝦夷征伐を歌ったのが、南相馬市に暮らした若松丈太郎。軍事侵攻する朝廷に抵抗した英雄、名も無き人々に思いをはせる。

 苦難は今も続く。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故は、今の東北の詩人にとって避けて通れないテーマかもしれない。福島県浪江町から相馬市に避難した根本昌幸の「わが浪江町」は被災した心境をストレートに詠んだ一編。放射能に汚染された土地として世界的に知られ、「フクシマ」とカタカナ表記になった悲しみと帰郷への決意をつづる。

 読者はある時は縄文時代に、ある時は藤原三代の時代にと、時空を超え、詩に歌われた土地を自由に旅することができる。ページを繰れば、東北をはじめ各地域固有の文化や歴史が見えてくる。(裕)
   ◇
 コールサック社03(5944)3258=1980円。

河北新報
2022年1月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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