「鎌倉殿の13人」で話題の北条家でも読まれていた『貞観政要』 帝王学の教科書と呼ばれる理由とは

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古来から帝王学の教科書とされてきた『貞観政要』とは一体どんな書なのか? リーダーの心得が記された書として、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で話題の北条家でも読まれていたというが、日本人にとっては馴染みの薄い書である。

幾多の戦乱を乗り越え、自らに反旗を翻す可能性のある者も、その能力や人柄を認めて活かす方向に導いた唐の皇帝・太宗の考えがまとめられた、中国では誰もが知る古典中の古典について、夏川賀央さん翻訳の『超約版 貞観政要』から一部を抜粋し、内容を紹介する。

一貫して問われているのは、いかに謙虚でいられるかという点だ。

■「自分ですべてをやろうとせず、部下を信頼して任せるべき」

隋の文帝について、太宗が家臣蕭ウ(しょうう)に尋ねたところ、「仕事熱心で、朝から晩まで政務に励んだと聞いています」という回答だった。しかし太宗は「宮殿の官吏たちはイエスマンになっているようだ。自分ですべてをやろうとせず官僚を信頼して任せるべきだ」とした。そして、理に合わないことは意見するようにと家臣に注文し、下の意見をしっかり聞くことを約束したのだった。

「部下に任せる」ことができない人がいる。しかし、それでは仕事の幅が狭まってしまう。やり方が違っても任せて見守ること、これが自らと部下を成長させる方法だ。

■「優れたリーダーほど長所を見つけて活用する」

太宗は、陰謀に加担した罪に問われていた王珪に、才能を見出し登用した。あるとき、他の家臣と比べて自分自身をどう評価するかと尋ねたところ、王珪はこう答えた。「国のために命をかけて仕える点では私は房玄齢に及びません。文武両道に優れた李靖のようなことはできません。実務能力が優れている温彦博に及びません。ただ、悪を徹底的に憎み善を望むという点では、私に一日の長があると考えています」

他人の欠点や不足点を見ていても意味がない。それぞれの長所を活用することの大切さをわかってくれるリーダーに、私たちは安心して付いていけるのだろう。

■「できるリーダーほど無意味な報連相を求めない」

太宗は言った。「このごろ報告を読むと縁起のよいことがあったと述べられているものが多い。もし国内で田畑を耕す人が不足すれば、縁起のいいことがあってもダメだ。縁起のいいことがなくたって、天下が太平で一軒一軒の家に住む人々が満足していれば十分に素晴らしい」

日々、慣例的に行う報告には「ムダ」があるもの。合理的に判断する上司がいれば、部下の不満や負担も軽減される。形だけではなく中身で判断されるということは部下にも伝わる。

■「ダメな組織には忠臣はいても良臣がいない」

あるとき家臣の魏徴が職権を乱用しているとの噂が立った。太宗が調べさせたところ、事実無根であることが判明した。それでも、「噂されることには当人にも責任がある」ということで、魏徴は注意されたのだった。そこで魏徴は太宗にこう言った。「もし君臣がうわべを繕い、本心で会話しなくなってしまったら、この国はどうなるのでしょう?私を忠心ではなく良臣でいさせてください。良臣とは、君主から認められるだけでなく。世間からの評判を獲得することができます。忠心は、君主が悪に陥れば自らが誅殺されることもあります」

反対意見を言ってくれる側近がいかに大切かがわかる。かつてアップルを追い出されたスティーブ・ジョブズは、復帰後「社員と本音で話をすること」を徹底した。短気で有名だった彼が経営者として上り詰めることができた要因だろう。

■「事後を見据えた勝ち方こそ組織が永続する秘訣」

高昌の国を討伐するために太宗から遠征を命ぜられた侯君集。高昌の王が亡くなりチャンスと思いきや、侯君集は騎兵に言う。「我が君主は、高昌が傲慢なのでこれを討つことを決めたのに、こちらが卑怯なやり方をすれば、敵を責める立場でなくなってしまう」そして、王の葬儀を待って、高昌の国を平定したのであった。

目先の勝利を得るのではなく、悪評を立てることなく統治するために最善の策を取ったことが示されている。先の先を予測して、長期的にものごとを考える力が問われている。

■高度な戦略などが書いてあるわけではない『貞観政要』

今読んでも心に刺さる言葉が多いのは、いつの時代にも通ずる普遍の真理がここにあるからなのだろう。実は、太宗は権力闘争の時代にあって、兄や弟を殺害している。二度とこのような状況をつくりたくない、という強い想いが、自らを絶対化せず、周りの人たちの幸せを願う姿勢につながったようだ。辛い場面が続く「鎌倉殿の13人」と重ね合わせてみると、より実感が湧いてくる。

どんなにいいシステムがあっても結局は人。どんなに有能な人物がいても、最後はチーム・組織力。そう考えたときに、信頼し合える仲間がいることが何より大事だということが身に染みてわかる。太宗はそれを実行に移し、混迷の世の中にあっても『貞観』という平和な時代を実現して見せた。

今の時代においても、いかに暮らしやすい世の中を創っていくかのヒントになる。私たちは競争に疲れ果てている。思いやり認め合う気持ちを取り戻したいものだ。「リーダー論」「帝王学」と称される『貞観政要』だが、何も高度な戦略などが書いてあるわけではなく、とても人間らしいことが述べられた書なのだ。

アップルシード・エージェンシー
2022年6月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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