「いつまでたっても阪神が勝たないから」Twitterに上げていた悲哀の短歌が歌集に!

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いつまでたっても阪神が勝たないから……「屈託」を歌集に

 勝つチームがあれば当然、負けるチームがある。スポーツ観戦を愛する者にとって、試合のある期間は純然たる愉しみだけでは終われない。しょっちゅう負けが込んでいるチームのファンであれば、なおさら狂おしい時間を過ごすことになる。

 本書『野球短歌』は、全313首に阪神タイガースを愛する日々をめぐる屈託がそのまま閉じ込めてある出色の歌集だ。今年3月末に書店に出回るや、ひと月で重版が決まり、現在累計4000部。歌集というジャンルにあって異例の売れ行きを見せている。

 著者の池松舞さんは元々歌人ではない。きっかけは昨春、阪神がセ・リーグのワースト記録を更新する開幕9連敗を喫したことだった。以来、「いつまでたっても阪神が勝たないから」という理由で(!)試合が終わるたびにSNS上にアップするようになった短歌が、詩人の斉藤倫氏に言及され、じわじわと評判を呼んだ。刊行に際して編集を担当したナナロク社・村井氏もリアルタイム読者のひとりだ。「当時は池松さんのツイートから勝手に短歌を集めて楽しんでいました」と笑いながら振り返る。

「一刻も早く出版のオファーを出したかったのですが、いわゆる企画ものにはない、本人が思うままにつくっている短歌に魅力があるので、最後の試合が終わるまでは私が関わることで邪魔をしたくなくて……。オファー後も“目の前のドラマを目一杯、生きてください”とだけ伝えていました」

 作歌にあたって池松さんが自分に課した制約がある。それは、最終戦まで毎試合続けること、試合後すぐに詠むこと、うそをつかないこと、ハッシュタグをつけないことの四つだ。

「目の前の出来事に心がどんなふうに動いたか。池松さんの短歌はそこが鮮やかに掬い取られている点が最大の魅力。それがシンプルに伝わるように、日付と試合結果のみを○△×で頁の右下に記しました」(同)

 例えば〈6月26日〇〉の頁には〈今日だけは各駅停車でサヨナラを何度も何度も見ながら帰る〉という一首。日々の観戦を通じて、ひとりの人間の生活のかけがえのなさが浮かびあがってくる。

倉本さおり

新潮社 週刊新潮
2023年6月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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