【話題の本】『踏切の幽霊』高野和明著

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■理を超えた社会派ミステリー

高野和明といえば、平成23年度の山田風太郎賞に輝き、雑誌のミステリーランキングも席巻した冒険SF大作『ジェノサイド』の印象が強い。それ以来の長編小説となる本書は、異色の幽霊譚。19日に選考会が行われる第169回直木賞の候補作にも選ばれている。

1994(平成6)年の東京。新聞社を辞め、女性誌の記者として働く主人公の松田は、心霊ネタの取材を振られる。幽霊の目撃談や列車の停車騒ぎが相次ぐ下北沢の踏切を調べ始めた松田は、そこで1年前に若い女性が殺されていたことを知る。犯人はすぐに逮捕されたが、女性の身元は今も不明のまま。そんな不可解な事件だった。丹念な調査の末、意外な真相が見えてくる…。

硬派な社会派ミステリーの装いだが、登場人物はたびたび論理的に説明がつかない心霊現象に遭遇する。妻を亡くした喪失感を抱えながら霊や魂に思いをはせる松田の姿も胸に迫る。論理で構築されるミステリーに、理を超えたものを融合させていく作家の力業が物語に深みを与えている。昨年12月刊で、累計2万3000部。怪談や幽霊話の季節でもある夏本番を迎え、さらに注目度が上がりそうだ。(文芸春秋・1870円)

海老沢類

産経新聞
※この記事の内容は掲載当時のものです

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