『タモリ倶楽部』の放送作家が明かした“流浪”の制作現場 「ネーミングセンスのくだらなさは、ある意味極北」【極私的「タモリ倶楽部」回顧録】

エッセイ・コラム

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番組制作のルーティーン

 さて、スタッフになると番組制作のルーティーンに従うことになる。隔週の土曜日に収録があるため、スタッフワークは2週間がワンパックとなる。1週目の月曜日、会議でネタ出しがおこなわれる。我々構成者、ディレクター、アシスタントディレクター、全員でネタを持ち寄る。

 これこれこういうのはどうでしょうか、という想像の中だけで思いついたものもあるが、こんなことやってる面白い人がいるんですよといったネタには「どこに住んでいるの」「いつからそれやってるの」「他に紹介されているの」「そもそもそれのどこが面白いの」という吟味がなされ、採用不採用および調べを進めようという案件が決まる。そして主なキャスティングも同時に進める。

 週があけ2週目の月曜日、「あのネタは進めてます」とか「えー先週のネタはこれこれですべてボツになりました」といったことが知らされ、我々スタッフが追加のネタを発表することもたまにあった。今週土曜に番組収録があるのに。

 そしてスタッフ全員の頑張りにより、木曜日には中身の準備が整いまして我々構成者が台本を書くことに。私が働いていた頃の台本書きはテレ原(テレビ用原稿用紙)にシャーペンなどで手書きしていました。つまりは我々構成者が書いたものを担当ディレクターが消しゴムで消して書き直すことができるように、ということなのだ。

 なぜそんなめんどくさいことをと思われるかもしれないが、「タモリ倶楽部」の台本はどうかというくらい「想定のやり取り」を書くものなのである。このへんわかりやすく説明すると、今の番組のロケ台本だと「ここで両者口論になり」と、あとは演者に(いい意味で)まかせているものが主流だと思うが、「タモリ倶楽部」の台本は違った。


タモリさん

主流とは違う「タモリ倶楽部」の台本

 一例をあげよう。1994年9月9日放送の「プレ日本シリーズ 巨人VS西武」の台本である。

   *

タモリ 毎度おなじみ流浪の番組、「タモリ倶楽部」でございます。暑い日が続いとりますが、今年はプロ野球の方も終盤に向けて盛り上がりを見せております。パ・リーグはともかく、セ・リーグの方はどうもジャイアンツで決まりのようです。
 
 
~ヨネスケ、ジャイアンツのユニフォーム姿で
 
 
ヨネスケ でしょう。

タモリ しまった。よりによってお前が一番得意な話題で入っちゃったよ。

ヨネスケ ざまあみろこの隠れヤクルトファン。

タモリ いやまだわからんぞ。

ヨネスケ わかるって! 誰がどう見ても今年は読売巨人軍、創立60周年を、ぶっちぎりの優勝で飾りますよ。いや、もう優勝しました。な、みんな。
 
 
巨人軍応援団 おーーーーー!(ドンドンドンドン)
 
 
タモリ な、なんだ? この人たち。

ヨネスケ 球団も認める唯一の応援団。こちらが「東京読売巨人軍応援団」の皆さん。

タモリ 「日本シリーズに向けて」って相手はどこなんだよ。

ヨネスケ あ、それがあったか?

タモリ パ・リーグはどこが優勝するんだよ。

ヨネスケ さーーーー? どこかなあ。南海か? 鶴岡の。白仁天の東映も強いしなあ。

タモリ いつのパ・リーグだよ。
 
 
~そこに西武ライオンズのユニフォーム姿の三遊亭小遊三、登場
 
 
小遊三 おいおい、さっきから聞いてりゃ、わけのわからないこと言いやがって、うちに決まってるだろ!
 
 
~ヨネスケ、小遊三のユニフォームの袖の「西武」の文字をさして
 
 
ヨネスケ え、誰だよ、「にし、たけし」さん?

   *

 といったオープニングを私は書いた。この後にも小遊三師匠のセリフで「巨人は五弱を負かして来てるだけだろう。うちは四強から勝ち抜けてきてるんだから強さの質が違うんだよ」とも書いている。私が野球好きとは言え、よくここまで書き込んだなあと思う。

 このように隔週木曜日の午後はどの回でも「とても重要な回」として台本を書いてました。

新潮社 波
2023年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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