当時SMAPのメンバーに影響を与えたタモリ倶楽部の伝説の企画 番組に携わった放送作家が見てきた歴史とは?【極私的「タモリ倶楽部」回顧録】

エッセイ・コラム

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


タモリさん

 40年にわたり放送されたバラエティ番組『タモリ倶楽部』。お尻を振るオープニング映像やマニアックすぎる企画、言われてみれば確かに聞こえる「空耳アワー」など、多くの視聴者を楽しませてきた伝説の深夜番組だ。

「毎度おなじみ流浪の番組、タモリ倶楽部でございます」という挨拶で始まる番組はどのように作られていたのか?

 当時、放送作家として22年間にわたって番組に携わった高橋洋二さんが、タモリ倶楽部のターニングポイントとなった企画や若手芸人のキャスティングが増えたわけ、そして番組の司会を努めてきたタモリの魅力を語った。

※本編は高橋洋二さんによる私的な回想録です。番組制作の一端を担った放送作家が見てきたタモリ倶楽部の一面としてお楽しみください。

 ■前編「放送作家が明かした“流浪”の制作現場」を読む
 ■中編「放送作家が語った自作自演の企画」を読む

高橋洋二/極私的「タモリ倶楽部」回顧録 後編

 1996年3月に放送された「タモリ倶楽部」は、個人的にとても思い出深いものであり、かつ図らずも当番組の今後の新しい展開を示すものとなった。さらにこの回をたまたま観ていた、あるスーパーアイドルの方にも影響を与えたという、数々の僥倖に恵まれたのだ。

「第一回 YOUSAKU選手権 死闘!優作マニア」である。

 出演は爆笑問題・太田光(当時30歳)田中裕二(31歳)、海砂利水魚(現くりぃむしちゅー)・上田晋也(25歳)有田哲平(25歳)、進行役は赤坂泰彦。

 内容は「日本で一番熱い松田優作ファンは誰か」を決める大会が行われていて(もちろん架空の設定)、本日が勝負を勝ち抜いてきた二大優作ファンの太田と上田がその雌雄を決する日、というもの。

 なぜ私がこの企画を思いついたかというと、そのひと月前くらいに若手お笑い芸人を何組か集めたライブがあり、その楽屋で太田と上田が「俺の方がお前なんかより優作好きだわ!」「じゃあ○○○知ってるか」「知ってるわ! 簡単だな」といった口げんかで盛り上がっているのをたまたま見たからだ。

 つまり太田と上田がかなり凄いレベルの松田優作ファンであるということは紛れもない事実で、「企画を思いついた」というより私はこのやりとりをカメラの前に運んだだけなのだ。

 内容は「優作クイズ出し合い対決」「優作ものまね対決」「優作漫才」など。台本書きはとても楽だった。対決の内容は全部本人たちに丸投げでいいのだから。

タモリを置いてきぼりにしてしまう回のはずが

 クイズでは太田が上田に「1980年の優作の出演映画作品を順番にすべて答えろ」と出題、上田は「はいはい、……『レイプハンター 狙われた女』、これノンクレジットね、あと、あれどっちが先だっけ……はい、『薔薇の標的』『野獣死すべし』!」と見事正解した。

 ものまねでは上田が確か「ブラック・レイン」のワンシーン、太田は「蘇る金狼」の長台詞「あんたんとこの部下は、なりばかりはでかくても銃に関しては全くのトオシローだねえ。いいかね、この距離からあの種類の銃をぶっ放せば弾は完全に俺の体を貫通してあんたに当たるんだよ。それにだ。俺の体を貫通する時は弾は炸裂しない。だからまだ助かる見込みはある。ところが(以下略します、まだ半分です)」をそらんじた。

 似ていたのは上田で、現場を沸かしたのは太田だった。どっちが勝ったかは忘れてしまいました。

 タモリが松田優作に強い思い入れはないと知っていた我々スタッフは、今回はいわゆる「タモリを置いてきぼりにしてしまう」の回になるのかなと思っていたが、そんなことはなくて収録を始めてみたら「爆笑問題と海砂利水魚はやっぱり面白い」という表情を見せながら、時に松田優作トークに参加していた。

 確か「テレフォンショッキング」でのエピソードを披露して、太田と上田が「すげえ」となっていたという記憶がある。そして最終的に二人のマニアックな真剣勝負を賞賛した。二組とも当時はテレビでは売れていなかったが、同時期の番組「タモリのSuperボキャブラ天国」では「キャブラー」(東京の若手芸人)のリーダー格であった。

木村拓哉にも影響を及ぼしたYOUSAKU選手権

 ちなみに冒頭に記したスーパーアイドルは木村拓哉である。どうやらこの回を観て自分も松田優作を演じてみたいと思い、「SMAP×SMAP」で「探偵物語ZERO」なるパロディコントを作り松田優作を演じたらしい。

 第1回がこの年96年の12月、その後98年5月まで7本OAされている。木村拓哉演ずる優作は明らかに上田版優作を参考にしたものだった。97年6月OAでは海砂利水魚も出演している。

 たぶんこの現場で上田は木村拓哉から「実は『タモリ倶楽部』の『YOUSAKU選手権』を観たのがきっかけでできたコントなんです」的なことを聞いたのだろうと思う。

新潮社 波
2023年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

株式会社新潮社「波」のご案内

創刊から55年を越え、2023(令和5)年4月号で通巻640号を迎えました。〈本好き〉のためのブックガイド誌としての情報発信はもちろん、「波」連載からは数々のベストセラーが誕生しています。これからも新しい試みを続けながら、読書界・文学界の最新の波を読者の方々にご提供していきたいと思っています。