『タモリ倶楽部』の放送作家が明かした“流浪”の制作現場 「ネーミングセンスのくだらなさは、ある意味極北」【極私的「タモリ倶楽部」回顧録】

エッセイ・コラム

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筆者が書いた「タモリ倶楽部」台本。ごく一部です(写真提供:高橋洋二)

 40年にわたり放送されたバラエティ番組『タモリ倶楽部』。お尻を振るオープニング映像やマニアックすぎる企画、言われてみれば確かに聞こえる「空耳アワー」など、多くの視聴者を楽しませてきた伝説の深夜番組だ。

「毎度おなじみ流浪の番組、タモリ倶楽部でございます」という挨拶で始まる番組はどのように作られていたのか?

 当時、放送作家として22年間にわたって番組に携わった高橋洋二さんが、制作現場の裏側を明かしながら、印象に残っている思い出を語った。

※本編は高橋洋二さんによる私的な回想録です。番組制作の一端を担った放送作家が見てきたタモリ倶楽部の一面としてお楽しみください。

 ■中編「放送作家が語った自作自演の企画」を読む
 ■後編「タモリ倶楽部の伝説の企画」を読む

高橋洋二/極私的「タモリ倶楽部」回顧録 前篇

 1982年10月8日に始まり、2023年3月31日に終了したテレビ朝日系「タモリ倶楽部」で、私は1990年から2011年の間、構成を担当した。私より長きにわたり番組に携わっていたスタッフの方はたくさんいらっしゃる。その皆様に少し申し訳ない気持ちを持ちながら拙文を献上いたします。

 1961年生まれの私は、大学生時代に「タモリ倶楽部」を初めて見て、ああタモリのタモリらしい滅法面白い番組が始まったなあ、とうれしく思った。それまでの夕方にオンエアーしていた「夕刊タモリ こちらデス」が大好きで、例えばスポーツニュースのコーナーの体裁で昨日のヒーローとして往年の西鉄ライオンズのエース、稲尾和久氏(当時40代半ば)をユニフォーム姿で出演させ「昨日のピッチングについて」のヒーローインタビューを行うような、空前のふざけた番組だったのだ。この素晴らしい連携に若い私は、あ、テレビ朝日はタモリの面白い番組を本気で作ろうとしているぞ、と実感した。

 大学2年生の私は考えていた。父や兄と同じように四大を出てそれなりの企業に就職するもんだと思っていた私は、「タモリ倶楽部」に時々、「作家の景山民夫」とプリントされたTシャツを着て登場する景山民夫さんの、あまりにも楽しそうな様子を見て、俺、就職するよりこの世界に行きたい(二浪だし)と強く思った。

 はやく「タモリ倶楽部」の話、始めろよ! というあなた、ごもっともです。しかしこのあと、晴れて放送作家とライターに職を得た私の話が続きます。

遂に「タモリ倶楽部」の作家に

 テレビ雑誌「TV Bros.」にて「10点さしあげる」という連載コラムを持っていた1990年、私はいち視聴者として、つまりはまだスタッフではない時点で「大切なことは『タモリ倶楽部』で学んだ」というコラムを書いていました。

 この時点で「タモリ倶楽部」を「もう立派な長寿番組」とした上で、当時リニューアルした「タモリ倶楽部」の新コーナー「大人の減点パパ」(90年6月)を私は激賞している。

 毎週、素人のケバい女の子が自分の「パパ(愛人)」のことを、あれこれ話し、タモリが似顔絵を描き、「パパ」への作文を読ませて大きなマルをつけて終わるというものだ。

「私が若い男の子と遊ぶと『そんなに若い男がいいのか』と泣くパパ。そんなパパが大好きです」とのこと。滅茶苦茶面白い。

 ちなみにこのコーナータイトルは70年代、NHK日曜夜に放送されていた「お笑いオンステージ」のワンコーナー「減点パパ」によるもの。

 まずスタジオにゲストの子供だけが登場し、司会の三波伸介が子供のヒントをもとにゲストの似顔絵を描いていく。この似顔絵がおそろしくレベルが高かった。最後にゲスト本人が登場し、家族とのエピソードが語られる、という内容。

 序盤はパパの失敗談などが紹介され三波がこわもてで似顔絵の周りにバツマークを貼っていく。つまり「減点」だ。しかし最後にはパパはいかに子供のことを愛しているかが語られ、拍手と共に大きなマルが貼られるのだ。この構造を「パパと愛人」に置き換えるとはなんという発想か。

 その「タモリ倶楽部」は私のあずかり知らない事情で数ヶ月後に制作会社が変わり、リニューアルするタイミングで私は放送作家の町山広美さんに誘われる形で番組に参加することになる。

 ほんとうに嬉しかった。一番好きな番組の作家(構成者)になれたのだ。

新潮社 波
2023年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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