「なに恥ずかしいこと平気でやってるんだ」タモリにツッコまれた放送作家が語った自作自演の企画【極私的「タモリ倶楽部」回顧録】

エッセイ・コラム

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タモリさん

 40年にわたり放送されたバラエティ番組『タモリ倶楽部』。お尻を振るオープニング映像やマニアックすぎる企画、言われてみれば確かに聞こえる「空耳アワー」など、多くの視聴者を楽しませてきた伝説の深夜番組だ。

「毎度おなじみ流浪の番組、タモリ倶楽部でございます」という挨拶で始まる番組はどのように作られていたのか?

 当時、放送作家として22年間にわたって番組に携わった高橋洋二さん自身が出演した放送回の舞台裏を語った。

※本編は高橋洋二さんによる私的な回想録です。番組制作の一端を担った放送作家が見てきたタモリ倶楽部の一面としてお楽しみください。

 ■前編「放送作家が明かした“流浪”の制作現場」を読む
 ■後編「タモリ倶楽部の伝説の企画」を読む

高橋洋二/極私的「タモリ倶楽部」回顧録 中篇

 先月号の本稿「前篇」の文末は、「『タモリ倶楽部』を『ライター』としての私が今どう感じているのか次号にお送りします。(後篇につづく)」であった。しかし今回このページのタイトルには〈中篇〉とある。

 あのこれどういうことなのかと言うと、編集部の方から、もう少し番組に関する個人的そして具体的なエピソードなどを書くのはどうか、その〈後篇〉の前に、と打診されたからなのです。

 というわけで今回は、何かまとまったことを立論などするでもなく、いわゆる「思い出」をグラフィティ的に書きます。

「タモリ倶楽部」に関わって最初に痛烈に感じた個人的な記憶は、桜金造さん(タレント・俳優)からの一言である。90年頃だと思う。申し訳ないことに番組内容は失念したが、その回は私が台本を書き収録にも立ち会っていた。

 番組の制作会社ハウフルスの社長、菅原正豊さんから「君が高橋くん? これからよろしくね」と笑顔で話しかけられ、とてもうれしく思った。ややあって出演者の桜金造さん(初対面)が私に、台本を手に「このとおりにやればいいのね、本屋さん」と仰った。

「本屋さん」とは映画やドラマの現場で使われる「脚本家」「台本作家」の符牒であることは学生時代に読んだ本で知っていたが、まさか自分がそう呼ばれるシチュエーションをイメージしたことがなかったのでいろいろとびっくりした。その「いろいろ」を分析すると、

・桜さんは若い作家(私)が書いたこの台本に不満があるらしい。
・そしてそれを本人にそれとなくだが直接伝えたい。
・その時、その若い作家にあえて「本屋さん」と言う。

 以上のことを瞬時に私は感じたのだが、やがて抱いた感慨はこれである。

・かつてのいわゆる「テレビの黄金時代」にハナ肇や植木等が青島幸男のことを「本屋」と言っていた、その「本屋」という呼び名で私が呼ばれたよ。なんということだ。

 まあ、私がおめでたい頭の持ち主だという話なのだが、「タモリ倶楽部」なるテレビの鉄火場に来たぞという実感をしっかり感じた一日だった。

放送作家自身が出演した回の思い出

 思い出深い、というくくりで言うと、やはり「自分が出演した回」になろうか。

「悪筆ライターを探せ」(93年9月)という、単に字が下手なライターを取り上げた回にカーツ佐藤さんたちとともに出演した。

 いつも当番組の台本を製本してくださっている三交社の方にも出ていただいて、我々悪筆ライターの肉筆の文字を読んで文字に起こしてもらうという企画だが、私のターンで三交社の方が私の書いた字を読めなくなる一瞬があり笑いをひとつ取りました。

 ちなみに私が出演した回はほとんどが若いディレクターや作家が持ち込んだ企画で、高橋発ではない。会議で内容を詰めている中「じゃあ今回、高橋さん出ますか?」となって出たものばかりである。


筆者が書いた「タモリ倶楽部」台本。ごく一部です(写真提供:高橋洋二)

「なんであんな企画に出たんですか」と激怒

「書いた!刷った!売れ…!?私の空振り本」(00年5月)という回は、番組まわりのライターや俳優や文化人が最近出版した本を持ち寄り、著者本人が思っていたより売れなかったというエピソードを語り反省する内容のものだった。

 加藤賢崇『いぬちゃん』(ヤマハ音楽振興会)、山田ゴメス『間接挿入』(KKベストセラーズ)、杉作J太郎『ヤボテンとマシュマロ』(メディアワークス)、安齋肇、なんきん、しりあがり寿『なす』(アスペクト)、そして高橋洋二『10点さしあげる』(大栄出版)である。今こうして書き起こしてみると可笑しいやら泣けてくるやらである。

 著者全員に共通していたことは、この本は売れるかもしれないと本気で思っていたということであり、我々は決してふざけた気持ちで収録にのぞんではいなかった。私が書いた台本も妙に丁寧で、著者ご本人との打ち合わせであがってきた「反省点」も書いてある。

「推薦文をモッくんと鈴木杏樹に書いてもらったが、プライドが邪魔して裏に印刷してしまった」(加藤)、「腰巻き(オビのコピー)がよくなかった『下の口から聞け!!』」「ついハードカバーにしてしまった」(山田)、「マンガが下手すぎた(全然似てない萩本欽一、高倉健、ブルース・リーなど)」(杉作)、「なんきんの日記が暗かった」(安齋)、「一般的にこのタイトルでは何の本なのかわかりづらい」(高橋)。

 どれも皆、下手なウケ狙いをしていない。とても真面目な回だった。が、全員、担当編集者からは「なんであんな企画に出たんですか」と怒られたという。私もだ。編集者の皆さんは「本が売れなかったという事実で著者が笑いをとる」ことに強い違和感を抱いていたらしい。考えてみたら当たり前だ。すみませんでした。

新潮社 波
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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