【話題の本】『口訳 古事記』町田康著

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■笑いながら古典の魅力再発見

奈良時代に成立した現存する日本最古の歴史書「古事記」。天地開闢(かいびゃく)に始まり国土の生成、初期天皇の治世などがつづられ、昔話としてなじみ深い神話や寓話(ぐうわ)も含まれている。原典に挑むのは難しくても、現代語訳だったら一度は通読してみたい-。そう思っている人には、うってつけの本かもしれない。軽快なテンポに乗せられて、すいすい読める。

例えば、伊耶那岐(いざなき)と伊耶那美(いざなみ)による国生みの挿話。火の神を生んだときのやけどが原因で死んだ伊耶那美を思い、伊耶那岐は「おまえは、あんなしょうむない子供ひとりのために死んでしまったのか。釣り合わんでしょう」と叫ぶ。古代神話と現代的な口語のミックスがおかしみを生んでいる。ほかの場面でも、神々は現代人のように「マジか」と言って驚くし、「ルッキズム」「足柄SA(サービスエリア)」なんて言葉も出てくる。関西弁を交えたくだけたやりとりがとにかく楽しい。同時に、人知を超えた神々の底知れないパワーも伝わってくる。

4月に刊行され、7刷2万1000部に達した。読者の年齢層も30代から70代まで幅広い。笑いながらページをめくっているうちに、古典の魅力を再発見できる。(講談社・2640円)

海老沢類

産経新聞
2023年9月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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