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- お客さん物語
- 価格:946円(税込)
人気の南インド料理「エリックサウス」総料理長・稲田俊輔さんが、レストランを舞台に日夜繰り広げられているお客さんたちのドラマを描く『お客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音』(新潮新書)。
同書は、楽しくも不思議なお客さんの生態から、サービスの本質までを綴った画期的な一書です。そこに収録されている一篇「常連さんと特別扱い」を公開いたします。はたして、お客さんはみな平等なのか――。
常連さんと特別扱い
世の中には「行列のできる飲食店」というものがそこかしこにあります。はたから見ると「さぞかし儲かってるんだろうな」と思われがちですが、実際のところはそういう店もほとんどは、行列ができるくらいでようやく収支トントン、というのがその内情だったりします。特にラーメン屋やカレー屋、定食屋といった、ディナータイムよりむしろランチタイムの方が稼ぎ時になるようなお店だと、その短い時間にすら行列が出来なかったらそもそもその存続が危ぶまれるような厳しいケースも少なくありません。
僕が運営しているインド料理店もそんなお店のひとつです。
行列ができるというのはとても有難いことですが、同時にそれは様々なトラブルの種にもなります。空腹で列に並んで待たされるというのは誰にとっても愉快なことではありません。いかなる時でも絶対に誰一人として「不当に順番を飛ばされた」と感じさせないように慎重に事を進めねばならないのです。
なので多くの店では少なくとも「グループ客は全員揃ってからのご案内」というルールは厳格に守られています。お花見の場所取りとは違うのです。もっと厳格な店では、行列に並び始めるのも「全員揃ってから」というルールが敷かれています。厳密にはその方が合理性に優れています。しかしだからといって、家族連れのお父さんがとりあえず列に並び、後から小さいお子さんを二人連れたお母さんを呼び寄せる、みたいなケースに厳格にルールを適用するというのも情のない話です。
どんな店でも、基本ルールは守りつつ様々な例外にはその都度対応する必要があるわけですが、どんなに細心の注意を払っても、時にそれは誰かにとって「不公平」と感じさせる可能性をはらんでいます。
そもそもお客さんを並んで待たせるのはお店側としても心苦しい。並んでいる間にイライラする気持ちは痛いほどわかる。でも行列がある状態で最大限効率よく席を埋めていくということをしないとお店の経営は成り立たない。これはお店にとってもなかなかのジレンマなのです。
ある時僕は、名古屋にある自分たちのインド料理店でそんなトラブルに直面しました。店頭で順番に席を案内していた時、先頭に並んでいた女性のお客さんに「ちょっと!」と語気鋭く呼び止められたのです。
「何よ! この店は常連だからって特別扱いするわけ!?」
株式会社新潮社のご案内
1896年(明治29年)創立。『斜陽』(太宰治)や『金閣寺』(三島由紀夫)、『さくらえび』(さくらももこ)、『1Q84』(村上春樹)、近年では『大家さんと僕』(矢部太郎)などのベストセラー作品を刊行している総合出版社。「新潮文庫の100冊」でお馴染みの新潮文庫や新潮新書、新潮クレスト・ブックス、とんぼの本などを刊行しているほか、「新潮」「芸術新潮」「週刊新潮」「ENGINE」「nicola」「月刊コミックバンチ」などの雑誌も手掛けている。
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