「いつもお弁当なのに今日はどしたん?」 大阪桐蔭を初の全国制覇に導いた“部活動の指導者”が大切にしたこと

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高校生はプロ野球選手じゃないからこそ…(※画像はイメージ。Image by photoAC)

 2023年秋の近畿大会を制し、今年開催の第96回選抜高校野球大会(春の甲子園)でも優勝が期待される大阪桐蔭。今や甲子園の常連校で常勝軍団の呼び声も高い同校が、初めて全国制覇をしたのは1991年の夏の甲子園でのことだ。創部わずか4年目で初出場、そして初優勝という快挙だった。

 今回は初代・大阪桐蔭高校野球部部長で『日本一チームのつくり方~なぜ、大阪桐蔭は創部4年で全国制覇ができたのか? ~』(あさ出版)の著者である森岡正晃氏が語る、日本一のチームづくりに欠かせないポイントを見ていこう。

(※以下は『日本一チームのつくり方~なぜ、大阪桐蔭は創部4年で全国制覇ができたのか? ~』をもとに再構成しました)

日本一を争うチームに必要不可欠なもの

 仙台育英対慶應義塾。今年(2023年)の夏の甲子園決勝のスタンドで私は仙台育英の須江航監督の一挙手一投足に目を奪われました。身振り手振りで選手に声をかける須江監督のふるまいから感じたのは、選手一人ひとりに 対する愛情の深さです。

 指揮官の想いを伝え続け、監督も選手も一緒に戦っている。2連覇の偉業こそなりませんでしたが、監督の愛情が選手に伝わっているからこそ、2年連続で夏の決勝の舞台に勝ち上がれたのだと思います。監督というよりも、”教育者”だと感じました。

 時代が変わったとしても、指導者(リーダー)が心の奥底に持っておかなければいけないのは、選手への愛情です。愛情なくして、他者への思いやりの心を育て、強いチームをつく
り上げることはできない。それを改めて実感した夏の甲子園でした。

 いま思えば1991年、創部4年目で夏の甲子園に初出場し、全国制覇を成し遂げた大阪桐蔭で部長を務めていた時に、私が一番大事にしていたことが、選手たちへの愛情でした。

 私は創部1年目から野球部の強化に携わり、有望中学生のリクルートを始めたその彼らが、1991年に甲子園で活躍する主力選手たちでした。まだ若かったこともあり、部長というよりは、兄のような気持ちで彼らと日々接していたように思います。

リーダーがやるべきことは「監視」ではなく「観察」

 指導者には、メンバーの心の状態を察知する力が必要だと私は考えています。
どんなに意識の高い人間でも、やる気が高い日もあれば、どうにもこうにも気持ちが乗らない日があります。
 その心の状態をわかっていれば、相手に対する接し方は変わります。

 高校生の場合、平日の練習は授業を受けたあとに行います。
 授業で課題を提出したり、発表の準備をしたり、高校生としての日常のあとに練習が始まるわけです。部活動に関わる指導者として、このことを忘れてはいけないと思っていました。彼らは、野球だけに没頭できるプロ野球選手とは違うのです。

 私は教師として授業を持っていたので、野球部員の様子を見ていましたし、昼になれば食堂に行って、部員と一緒にご飯を食べていました。
 たとえば、そこで、自宅から通っている生徒が、いつもはお弁当を持ってきているのに、今日に限って、コンビニで買った軽食を食べていたとしましょう。
 すかさず私は声をかけます。

「お前、いつもお弁当なのに、今日はどうしたん?」
「いや、ちょっと、母親の具合が悪くて……」
「そうか、それは心配やな」

 こうした会話ひとつで、その生徒の心の状態を知ることができます。それがわかっていれば、仮に、グラウンドで覇気のないプレーをしたとしても、いつもと同じようにガツンと叱るのではなく、抑えて叱ることができます。

 グラウンド外での選手の様子を観察しておかなければ、臨機応変に対応することができません。「選手が悪いことをしないように」「何かあったらすぐに注意ができるように」と、高校生のことを監視している指導者もいますが、それは完全に間違った考えだと思います。
大事なのは、“監視”ではなく“観察”です。

 毎日、彼らの表情を見て、挨拶の声を聞いていれば、「どうした? 今日はちょっと元気がないぞ」ということはわかるようになります。というよりも、わからないといけません。

 指導者は、グラウンドで練習が始まる前に見ておくべきことがたくさんあるのです。
その点、教員として生徒たちの日常を観察することができたのは、選手との信頼関係を築くうえで私にとって意味のある時間になりました。

森岡正晃(もりおか・まさあき)
Office AKI 晃 代表。PL学園高校出身。高校時代は野球部主将を務め、近畿大学に進学。大学では硬式野球部の学生コーチも務める。また、PL時代の恩師・鶴岡泰(のちの山本泰)氏の助言で、中学校・高等学校教論一種免許を取得。大学卒業後は、教員となり、鶴岡氏が監督を務める大阪産業大学附属高校野球部でコーチとして高校野球に携る。大阪桐蔭高校では、野球部の初代部長に就任。自らリクルートした選手を一から育て、創部4年目で第63回選抜高等学校野球大会ベスト8、第73回全国高等学校野球選手権大会で全国制覇を果たした。

あさ出版
2023年1月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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