日本で30年以上暮らした外国人が気づいた、日本人が「YES」も「NO」もはっきり言わない理由<「世界一受けたい授業」で話題>

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 新型コロナウイルスの感染拡大による自粛要請から1年以上が経過。世界中で海外旅行の需要が落ち込んでいるものの、新型コロナウイルスの流行が終息したら旅行にでかけたい、という人は少なくありません。

 とくに日本は世界の旅行したい国々の中では未だにトップとなっており、不動の人気を誇っています(訪日外国人旅行者の意向調査/日本政策投資銀行・日本交通公社)。

 6月12日放送の教育バラエティー番組「世界一受けたい授業」(日本テレビ系、土曜午後7時00分)2時間スペシャルでは、「コロナが収束したら行きたい国1位!世界が絶賛する日本のすごいところ」と題した授業が放送予定です。

 その中で、授業をするのが『日本人がいつまでも誇りにしたい39のこと』著者で、日本で30年以上暮らしているルース・マリー・ジャーマン氏。

 そこで放送を前に、ルース・マリー・ジャーマン氏に日本のすごい文化が生まれる理由を聞いてみました。


日本人が簡単に「NO」と言わないのは、できるかぎり相手の要望に応えたいという思いが強いから

日本人が「YES」も「NO」もはっきり言わない理由

「YES」をあまりはっきり言わず、「NO」とも明言しないのは、日本人の特技の1つです。

「少々お時間をいただきます」

「調整中です」

「社内の関係部署の意見を聞いているところです」

 このように、日本人が簡単に「NO」と言わないのは、できるかぎり相手の要望に応えたいという思いが強いからではないでしょうか。

 むずかしいリクエストをいただいたとしても、なんとかやれる方法はないかとあれこれ手を尽くす。その結果、「調整してみます」や「少しお時間をいただけますか」といった、あいまいな答えになるのです。

 また、日本人が「NO」という状況を避けるために、さまざまな取り組みをしていることを理解できず、反発してしまったこともあります。

 前の会社ではお客さまからクレームがあったときや、社内の別の担当者に負担をかけたときなど、「経緯書」(どういう経緯でその問題が起きたかを報告する書類)の提出が義務づけられていました。

 私はどうしても経緯書が「おわび書」のように思えてならず、強く反論しました。

「なぜ社内共有のためだけに、時間をかけて経緯書を書かなければいけないの? 口頭で説明して謝っておけばいいじゃない」と内心思っていたのです。

 でも、いま自分自身が経営者となり、それがいかに的外れだったか痛感しています。

 経緯書はその担当者を非難するものではなく、問題の発端となった原因を究明し、これからの再発を防止するためのもと気づいたからです。

 これは、海外でもよく知られている日本発の問題解決手法「KAIZEN(改善)」のしくみに似ています。現場の従業員1人ひとりが当事者意識をもって作業の見直しを行うことで、チームとして前に進むための有効な手段なのです。

 日本人にとって重要なのは、ものごとがうまく進まないときにだれかを一方的に非難するのではなく、どうしたらよくなるかを前向きに考えていることなのです。

 いまは「NO」という状況を避ける、日本人のすごさを実感しています。

「完璧を目指す貪欲さ」は日本の強み


ルース・マリー・ジャーマン氏

 アメリカ育ちの私はつい、何事も完璧にはできないから少しぐらい仕方がないと思ってしまいます。少し汚れていてもいいだろう、少し遅れても大丈夫、言葉づかいが多少丁寧でなくても通じるからまあいいか……などなど。そうやって「少しくらいなら」と油断していると、そこからどんどん基準が甘くなり、気づいたときには「少し」ではなくなっているケースが往々にしてあります。

 しかし日本人は、「こうあるべきだ」という“期待値(ここでは数学的な値ではなく、期待の高さに対して使っています)”を高く維持している人が多いように思います。

「期待値を下げない日本人」をいちばん身近に実感したのは、リクルート創立者の江副さんとのやりとりでした。

 いまの会社で仕事をすることになったとき、江副さんから言われた言葉が印象に残っています。

「ルーシー、日本で不動産業をやるんだったら、宅建という資格をもたないとだめですよ」

 ほとんど漢字が読めない私は驚いて「そんなの無理です」と言ったのですが、まったく聞き入れてもらえませんでした。

 本来私に求められるのは、宅建主任の社員の通訳として外国人のお客さまと契約を結ぶ際に同席することです。

 しかし、江副さんは私に対する“期待値”を落としませんでした。

 外国籍の私にもフラットにチャンスを与え、評価も昇格もフラットにするかわりに、期待値を絶対に下げなかったのです。そのおかげで、私は2006年、欧米系女性としておそらく初の宅地建物取引主任士となることができました。

 仕事に対する勤勉さ、清潔に対するこだわりはもちろん、何事もクオリティを高めていく貪欲さなど、はなくしてはいけない日本の強みです。どんな状況でも日本人の大切にしている基準は下げずに、維持していただきたいと思います。

大切にしたい「可能性を探し出す能力」

 よく、日本人は起業に対するマインドが低いといわれます。

 日本はビジョンだけでは評価されません。確実に実現できる数字を求められます。

 日本では、インスピレーションや可能性だけでものごとを進めたりせず、いろいろな角度から状況を分析し、まず問題点を洗い出してリスク要素を並べる。

 失敗に対する責任が重い日本では、みなリスクをおかしたがりまりません。実験的に小さくやってみて、その結果がよければ本格的に始める、というのがこの国での成功法なのでしょう。

 それは日本人らしい、すばらしいものごとの進め方です。いい意味で慎重ですし、失敗が起きにくいといえるでしょう。

 逆に言えば、こうした日本の環境で起業に成功している人は、おそらく、日本人気質である「問題点を先に探す能力」に長けていることはもちろん、それと同じぐらい、あるいはそれ以上に「可能性を探せる能力」も秀でているはずです。

「問題点を探しリスクを避ける」ことは大切ですが、「可能性を探し出す力」も同じぐらい重要です。

 問題点を発見する能力に長けた特性は生かしつつ、これまであまり目を向けてこなかった「可能性を探り当てる力」の重要性を認めることができれば、国際社会において日本人はよりパワーを示すことができるようになるでしょう。

 今回お伝えしたのは、私の目から見た日本ですごい文化が育つ理由の一例です。

 コロナ禍においても、日本人のNOと言わずに可能性を追求する姿や改善意識には目を見張るものがあります。新型コロナウイルスの流行の終息後も、日本的な精神と美徳が失われることなく、日本人が日本の良さに気づき、自信をもって世界にそのよさを発信してほしいと思います。

ルース・マリー・ジャーマン(会社経営者)
米国ノースカロライナ州生まれ、ハワイ州育ち。1988年にボストンのタフツ大学国際関係学部から(株)リクルートに入社し、以来30年間日本に滞在。2011年まで(株)スペースデザインに在籍し、新規事業として、来日する外国人向けの家具付きサービスアパートメントを東京・横浜・ドバイにて開発・運営業務に携わる。1998年に日本語能力試験(JLPT)1級を獲得し、2006年に、宅地建物取引士となり、公益財団法人日本女性学習財団評議員、一般社団法人HRM協会の理事に就任。2012年4月より(株)ジャーマン・インターナショナルを起業。日本企業と外国人の潜在顧客をつなげるため、経営戦略と営業・広告活動をサポートしている。2018年に日本企業のグローバル化トレーニングを行う「Train toGlobalize」事業も立ち上げる。高校・大学・リクルートシーガルズ(現オービックシーガルズ)でのチアリーダー経験を生かし、在日米国商工会議所のスペシャルイベント委員会の委員長、神奈川県地方創生推進員を務める。また、復興庁が実施する「新しい東北」プロジェクトの有識者として、全国の自治体・企業での講演活動を通して、日本が日本らしいグローバル化を果たせるよう、応援している。

ルース・マリー・ジャーマン(会社経営者)

あさ出版
2021年6月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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