【深刻】気温上昇で「高温」も「豪雨」も増えるのに…世界が「温暖化」を解決できない理由とは

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この夏は世界で異常気象が相次いだ(Image by rawpixel on Freepik)

 異常気象をもたらす気候変動は、もはや深刻な事態になっている。

 ハワイ・マウイ島の山火事では100名を超す死者と1000名以上の行方不明者が出たが、ヨーロッパやカナダなど世界で同時多発的に大規模な山火事が発生している。

 世界気象機関(WMO)によれば、今年の7月は世界の平均気温が観測史上最も高かったそうで、「12万年ぶりの暑さ」だと指摘する専門家の声もある。日本列島も観測史上最も暑い7月を記録し、肌身で気候変動の影響を実感した人も多いのではないだろうか。

 締約国会議(COP)では、先進国を中心とした世界各国が気候変動をもたらす地球温暖化を抑えようと議論を重ねているものの、楽観視できない状況だ。この問題をわかりやすく解説するのは、日本エネルギー経済研究所の専務理事・首席研究員である小山堅氏だ。著作『地政学で読み解く! 戦略物資の未来地図』(あさ出版)で小山氏が伝える、気候変動対策の最新事情とは。

※以下は『地政学で読み解く! 戦略物資の未来地図』をもとに再編集したものです。

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地球温暖化でさらに深刻な被害の可能性も

 世界はすぐにでも対応すべき課題として「気候変動対策」に取り組んでおり、とくに急速に注目を集めているのが、「カーボンニュートラル」の実現です。

 カーボンニュートラルは、温室効果ガスの大気中への排出量と吸収量をイコールにさせることを意味するものです。先進国を中心にしつつも、世界中で取り組みが進められていますが、現状、実はカーボンニュートラルの実現はとても難しい挑戦といわざるを得ません。

 そもそも、世界的な気候変動をもたらしている原因として指摘されている地球温暖化は、化石燃料の燃焼などによってCO2が大気中に排出されたときに、本来ならば宇宙へと放たれる熱の一部が大気中にとどめられて地球の気温を上昇させる温室効果が発生することにより起こります。適度な温室効果ならまだ問題ないのですが、CO2をはじめとした温室効果ガスが増えすぎたため地球温暖化をもたらして、近年の世界的な気候変動ると多くの科学者が指摘しています。

 気候変動とその対策への科学的な知見を提供するIPCC(気候変動に関する政 府間パネル)などの報告書は、産業革命前と比べて気温が1.5度上昇すれば、「50年に一度の極端な高温」は1850~1900年と比べて8.6倍増えて、「10年に一度の極端な降水」も1.5倍に増える可能性を指摘。今後、深刻な被害が増える可能性を示唆し、警鐘を鳴らしています。

カーボンニュートラルの実現が難しい理由


カーボンニュートラルのイメージ

 カーボンニュートラルの実現はとても難しい挑戦であると述べた理由は次の通りです。

 現在、世界のエネルギー需要の8割を賄っているのが、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料です。カーボンニュートラルを実現するためには、残り30年足らずで化石燃料の割合を2割程度に抑え、残りの8割を非化石燃料(再生可能エネルギーや原子力など)に置き換える必要があるというのがエネルギー関係者のなかで一定の共通認識となっています。この取り組みがどれほど難しいのか。

 現在の経済活動や日々の生活は、基本的に化石燃料を使用することによって成り立っています。そして化石燃料を使って電気を生み出す発電所や、石油関連の製品を作り出す石油精製所などのインフラは長寿命であるのが一般的です。一度作ったインフラは、その後、10年、20年、長い設備では半世紀近くにわたって使用していくことになります。

 カーボンニュートラルを実現するとしたら、現状のエネルギー需要を満たしながら既存のインフラを全て変えなければなりません。もっと言えば、インフラ、サプライチェーンなども含めて、エネルギーを支えるシステム全体に革命的な変化が必要となるのです。これは現実的には決して簡単ではありません。

 さらにもうひとつ、問題があります。仮に先進国が2050年にカーボンニュートラルを実現できたとしても、発展途上国が同じペースで大きな変化を進めることは難しいと考えられます。

 発展途上国から見ると、先進国は産業革命から現在まで化石燃料を大量に使って経済成長を達成し、豊かになってきました。発展途上国だって自分たちも成長し、豊かになりたいと考えています。それなのに、先進国側から「これからは安価な化石燃料を使ってはいけない」と言われたらどう感じるでしょうか。身勝手ではないかと発展途上国側が考えても不思議ではありません。

 そもそも発展途上国は所得水準も低く、貧しい人々もたくさんいます。再生可能エネルギーなど近代的なエネルギーへのアクセスができず、政府によるエネルギー代金の補助金などに依存している人たちも少なくありません。カーボンニュートラルを無理やり進めようとした結果、エネルギー料金が大きく値上がりするようなことになれば、経済成長や発展を妨げることになるかもしれません。

 発展途上国のなかでは、まだ石炭火力発電が多用されています。建設されたばかりの「若い」発電所も多くあります。気候変動対策のために、こうしたインフラも全て停止・廃棄して、新しい設備に全て入れ替えるのは、発展途上国の現実を考えるとそう簡単にはいかないのです。

 脱炭素化にどうしても必要な革新的なエネルギー技術、例えばCO2フリーの水素などについては、先進国でさえ実現するのにかなりの時間がかかるでしょう。技術面で制約があり、所得の低い発展途上国が、これらの革新的なエネルギー技術を導入していくのが厳しいということは容易に想像できるでしょう。

 多くの国が2050年頃のカーボンニュートラル実現を宣言しています。各国はこれから実現のために最大限の努力をしていくことでしょう。しかし、現実には、その達成は簡単ではなく、目標と現実にギャップが発生する可能性は十分にあるというわけです。

石油や石炭などの利用は今後もしばらくなくならない

 近い将来に化石燃料がほとんど使われなくなるようなことは起こるのか。

 答えは「ノー」でしょう。化石燃料を使い続ける未来は十分に考えられます。

 事実、IEA(国際エネルギー機関)が示す「カーボンニュートラルな世界(排出ネットゼロの世界)に向けたロードマップ」では、2050年になっても、エネルギー全体の約2割は石油と天然ガスそれぞれが半分ずつくらいのシェアで使われることが示されています。

 このIEAの将来像は「バックキャスト方式」を採用して分析されました。

 バックキャスト方式は、最初に将来の目標を着地点に決めて、それを実現するためには世界はどう変わる必要があるかを示す方法です。つまり、「世界はこうなるでしょう」と見通しを示しているわけではなく、「世界はこう変わらなければならない」と示しているのです。その将来像においてさえ、石油や天然ガスは使われ続けるということですから、実際には石油や天然ガスがより大量に使われ続ける可能性は相当に高いと見たほうがよいのです。

 以上のように、2050年にカーボンニュートラルを世界で実現することは簡単ではないというのが現状です。ただ、それでも人類の大きな挑戦として歩みを進めていかなければいけません。

 では、私たちはどのようにして取り組めばいのでしょうか。

 まず、カーボンニュートラルを実現するためには、最初に進める必要があるのは省エネルギーです。できるだけ、エネルギーの消費量を抑制することで、温室効果ガスを減らして環境への負荷を下げるのです。利用するエネルギーをできる限り、非化石燃料で賄うようにしつつ(=化石燃料の消費を抑制する)、化石燃料を使ってもCO2を排出しない工夫も求められます。

 そして重要なのが、使用するエネルギーを電力に置き換える「エネルギーの電力化」です。なぜなら、発電の分野には再生可能エネルギーや原子力など脱炭素を実現できる、商業的に確立された技術がすでにあるからです。その割合を増やしていくことで脱炭素への道を急ぐのです。

 しかし、すべての分野を電力化することはできません。飛行機や大型船舶を動かす燃料、製鉄所のように大規模な火力を必要とする分野では、完全な電力化はまだ難しくコストがかかります。こうした難しい問題に対応していくための解決策は次の通りです。

 ひとつは、燃焼時だけでなく、製造のタイミングでもCO2を発生しない水素やアンモニアなどの燃料を使うことです。水素やアンモニアは再生可能エネルギーの電気で作ったり、化石燃料からも作ったりできます。後者の場合でも、製造のときに発生するCO2を大気中に放出しない方法があるのです。

 他にも、CO2排出量をゼロやマイナスにする革新技術も期待されています。一例を挙げれば、CCSやCCUSと呼ばれる技術や大気中からCO2を直接回収して地中に貯留する技術などに期待が集まっています。これは大気中のCO2濃度を引き下げる効果を持つため、「ネガティブエミッション技術」と言われることがあります。

 上記に述べたような方法が効率的に脱炭素化を進めるための処方箋と言えるでしょう。

 気候変動対策はもはや待ったなしです。世界的な取り組み、すなわち地球上に住む人間ひとりひとりの行動が求められているのです。

小山堅(こやま・けん)
日本エネルギー経済研究所 専務理事・首席研究員 1959年、長野県生まれ。1986年、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、日本エネルギー経済研究所入所。2001年、英国ダンディ大学博士号(PhD)取得。東京大学公共政策大学院客員教授、東京工業大学科学技術創成研究院特任教授を兼務。著書に『エネルギーの地政学』(朝日新聞出版)『激震走る国際エネルギー情勢』(エネルギーフォーラム)などがある。2023年、『OPEC Award for Research』を受賞。

あさ出版
2023年8月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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