脳の進化は「サバンナ時代」で止まっている!? メンタルがやられる理由と対策を脳科学から説く『メンタル脳』試し読み

試し読み

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 もう疲れた、つらい……。どうしてこんな思いをしなければならないのだろう。

つらい出来事に直面したとき、このように気分が落ち込むのは当たり前に思えるが、実はヒトの「脳」の仕組みが大きくかかわっているのだという。

『スマホ脳』が世界的なベストセラーとなった精神科医のアンデシュ・ハンセン氏は、新刊『メンタル脳』(マッツ・ヴェンブラード共著、久山葉子訳)で、私たちが幸せを感じたり、ひどく落ち込んだりする理由を脳科学の見地からやさしく説いている。そして、どうすれば「うつ」や「不安」に飲み込まれないか、また飲み込まれてしまったらどうすればいいか、具体的なアドバイスまで与えてくれている。

 この『メンタル脳』より、ハンセン氏が日本の読者に向けて送ったメッセージと、なぜヒトには感情があるのかという本書のテーマを語った冒頭部分を特別に公開する。

日本の読者の皆さんへ

 これほど快適な暮らしができるようになったのに、なぜ精神状態を悪くしている人が多いのだろう――精神科医として私はずっと考えてきました。そのことを徹底的に調べてやろうと思って書き上げたのが『ストレス脳』(新潮新書、2022)という本です。その本では、車で言うとボンネットを開けるようにして脳を調べ、心のメカニズムをのぞき、人間の心身がどのように機能するのかを説明しました。メンタルに一番大切なものは何なのか、どんな罠が存在するのか、といったことです。

『ストレス脳』では多くの人からうれしい感想をもらったので、出版社の編集者から「ティーンエージャー向けの本も書きませんか?」と打診されました。世界的にも今、10代のメンタルは「かつてないほど悪い」とも言われています。スウェーデンではここ20年、不眠で受診する10代の若者が10倍に増えていますから、今の社会で確実に必要とされている内容です。

 10代向けの本は、これまでにも『最強脳』(『運動脳』のジュニア版)、『脱スマホ脳かんたんマニュアル』(『スマホ脳』のジュニア版)を児童文学作家マッツ・ヴェンブラードの力を借りて執筆しています。今回もそのようにして『ストレス脳』のティーンエージャー版に当たる『メンタル脳』を書き上げました。

 書こうと思ったのは自分が10代の頃に読みたかった本です。人生で一番、自分自身や感情について知っておきたい年代があるとしたら、それは10代だからです。この本では脳という素晴らしい器官を主役に、感情とはいったい何なのかを説明していきます。不安になった時、悲しくなった時、うれしくて興奮した時、脳の中では何が起きているのでしょうか。脳や身体は運動や睡眠によってどんな影響を受けるのか。そして、なぜスマホから手を離すのがそんなに難しいのかといったことを取り上げます。

 あれをしろ、これをしろと言うつもりはなく、脳に興味を持ってもらえたらと考えています。ですからこの本が、もっと脳のことを理解したい、そして人生の色々な面を変えたいと思えるような本に仕上がったことを本当にうれしく思っています。スウェーデンでは4000の学校でこの本が配られ、「この本を読んでメンタルを優先するようになりました」という感想をよくもらいます。そのたびにこの本を書いて良かったと思います。

 日本でも私の著書は『スマホ脳』をはじめとして、驚くほど多くの人に読んでもらえました。それはテーマが世界共通だからでしょう。スマホもメンタルも、どう付き合うかは世界中の人たちが毎日苦労している問題なのです。この本が日本でも良い効果を生み、多くの若者が自分の脳について学んでくれることを心から願うとともに、本を読んだ人たちがもっと運動をし、睡眠を大切にし、スマホに使う時間を減らしたいと思えるようになればうれしいです。成績のためだけでなく、メンタルも身体も元気でいるためにできることなのですから。

2023年 よく晴れた9月某日
アンデシュ・ハンセン

2024年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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