『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』
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<書評>『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』岡真理 著
◆政治思想による執拗な暴力
昨年10月7日、「ハマース主導のパレスチナ人戦闘員による越境攻撃」があり、イスラエルは即座に「未曾有(みぞう)のジェノサイド攻撃」を始めた。
そして空爆、地上軍進攻と激しい軍事行動はやまず、世界の様々(さまざま)な国家がその反撃に対して肯定、否定、無視と異なる対応を示しているし、そうした国家の方針とは別に市民の抗議運動も続いている。
本書は素早いことに10月20日、23日にそれぞれ京都大学、早稲田大学で開かれたアラブ文学・パレスチナ問題専門家、岡真理氏による緊急セミナーを、同年の大晦日(みそか)に出版したものである。
第2次大戦後、イスラエルによって入植されたパレスチナの地は、幾度もの戦闘によって縮小され、ついに17年前、ガザが完全封鎖される。
この歴史をユダヤ教とイスラム教の深い対立の延長と決めつけ、ゆえに現代には解決不能だと語るような見当違いに対し、著者はまずこれが「シオニズム」と言われる政治思想による一方的な「占領」であることをひもとく。
事実、SNSなどでも頻繁に映像を見るように、敬虔(けいけん)なユダヤ教徒には現在のイスラエルによるパレスチナ弾圧に反対する者も多く、そもそもガザ、ヨルダン川西岸地区が人種隔離政策、「アパルトヘイト」の下にあることに抗議している。
実は評者である私も数年前、「国境なき医師団」の取材でガザに入り、そこで理不尽な暴力を受けるパレスチナ人を何人も取材した。
例えば2018年から始まった「帰還の大行進」という平和的デモ参加者は、毎週金曜ごとに銃撃され、多くは足を特殊な銃弾で狙われて骨や肉を失っていた。そうでなくてもガザの上空には日常的にドローンが飛んで監視が絶えないし、供給される電気も1日に数時間と限られている。
つまり、戦争行為はすでに長く執拗(しつよう)に行われ続けてきた。私たちがメディアによってその事実を知らされずにいたことが、今の許されざる暴力につながったという本質を、この緊急出版は要点をかいつまんで教えてくれる。
(大和書房・1540円)
1960年生まれ。早稲田大文学学術院教授・現代アラブ文学。
◆もう一冊
『「国境なき医師団」をもっと見に行く』いとうせいこう著(講談社文庫)