きょうだいがコンビを組んで活躍する探偵もの3シリーズ。相棒小説としても楽しめます!

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  • スリー・カード・マーダー
  • 猫は知っていた 新装版
  • 殺人方程式 切断された死体の問題

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きょうだいがコンビを組んで活躍する探偵もの3シリーズ。相棒小説としても楽しめます!

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 一風変わった姉妹コンビの探偵役に、密室殺人。J・L・ブラックハースト『スリー・カード・マーダー』(三角和代訳)は本格謎解きミステリファンが思わず心惹かれる要素を詰め込んだ小説だ。

 サセックス警察重大犯罪班のテス・フォックス警部補は、フラットの五階から落下してきた男性の変死事件を担当することになる。男性の喉は掻き切られており、何者かに殺害された模様だ。ところが被害者の部屋には誰もおらず、玄関のドアは内側から釘と板で封じられ、誰かが出入りした形跡が見当たらない。一体、犯人はどこに消えたのか。

 冒頭から古典探偵小説を彷彿とさせる密室の謎が描かれ、謎解き小説好きの期待感をまず煽る。次いで読者の心を掴むのは、謎解きを務める探偵役の登場だ。テスはある事情から、自身の腹違いの妹であるセアラ・ジェイコブズと再会し、彼女と事件の謎を追うことになる。実はセアラは腕利きの詐欺師であり、変装やスリもお手のもの。職業から性格まで正反対の二人の掛け合いが楽しく、相棒小説としても読み応えがある。肝心の密室についても稚気に富んだもので、トリックは愉快の一言。今後要注目のシリーズだ。

 テスとセアラのように、姉妹や兄弟でコンビを組んで事件に挑むミステリは数多い。兄妹探偵の代表例といえば仁木悦子の生んだ仁木雄太郎と悦子の〈仁木兄妹〉シリーズだろう。シリーズ第一作『猫は知っていた』(講談社文庫)では、頭脳派の兄と行動派の妹が病院内で起きる怪事件を追う。兄妹のやり取りが微笑ましい一方で、奇抜なトリックと戦慄的な終幕がシビアな読み心地を与える。

 兄弟が探偵役となるミステリの中で変わり種のシリーズといえば綾辻行人の〈殺人方程式〉だ。このシリーズは警視庁捜査一課刑事の明日香井叶と、哲学者を夢見る大学六年生の明日香井響という一卵性双生児の兄弟が登場するのだが、それぞれちょっとユニークな事件への関わり方をする。綾辻の代表作である〈館〉シリーズとはひと味違う、正攻法の真相当て小説が堪能できるのも特長だ。

新潮社 週刊新潮
2024年5月16日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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