不可思議な人々が繁茂する博物誌のような短篇集

レビュー

4
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植物たち

『植物たち』

著者
朝倉かすみ [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198640590
発売日
2015/12/08
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

不可思議な人々が繁茂する博物誌のような短篇集

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 植物の生態は動物のそれとは大きく異なり、また種によっても違う。どれが普通ということはなく、どれが異常というわけでもない。種ごとに生き続けるために必要な形があるだけの話である。朝倉かすみ『植物たち』は、その多様な姿になぞらえて人間を描く短篇集だ。博物誌に記載されるべき対象として人間を捉えなおしたようなもので、分類学者の如き公平さをもって作者は登場人物たちを紙の上に並べていく。

 収録作の一つ「どうしたの?」では、ホテイアオイのように際限なく繁茂し続ける娘たちが描かれる。語り手の「わたし」は、孤独な人生を送って来た人だ。五十年の間、新聞配達員として働き、退職して盛り場の一画に家を買った。みすぼらしい区画にある建物だが、元は画廊兼アトリエとして使われていたもので、一階の空間がすばらしかった。「わたし」はそこを、軒先を縫って差し込む陽光や漂う風の匂いを楽しめる、素敵な空間にしたいと望むのだ。そこに、一人の娘が迷いこんでくる。「わたし」と娘の共生関係はやがて、野生環境のように生物相が豊かな混沌状態へと変化するのだ。陽光の中で娘たちは静かに「繁殖」していく。

 花畑のように和やかな光景だけではなく、不穏なものも俎上に載せられるのがこの作者の強みである。収録作中でもっとも分量の多い「村娘をひとり」は、長篇『ロコモーション』などの、奇妙な形に育った自意識の持ち主を冷静に観察するタイプの作品に共通する味の短篇だ。誘拐した女性を自分好みの花嫁に育て上げたいという願望を持つ太一郎と、自身の肉体の女性性を憎むあまり少女に陰部封鎖を施したいと考える菊乃の二人が主人公だ。喩えられるのはシッポゴケ、「ほかのどのコケよりも日かげが必要」な植物であるという。日光を嫌って閉じこもっていたはずの者たちが動き出して世間と接触したゆえに起きる出来事が、黒々とした笑いと共に綴られていく。

 全七作、彩り豊かに楽しませてくれる短篇集だ。収録作のうち「乙女の花束」は、さまざまな切花が束ねられたブーケのように、掌篇が組み合わされた作品である。巻末に置かれた「趣味は園芸」の主人公は、どんな仕事も長続きせず、うたた寝と読書に時を費やす日々をパラダイスと感じる女性である。無為に日を過ごすだけの彼女の人生を、でも植物だって動かないけど光合成してるし、と弁護するかのように朝倉は温かく描くのだ。うん、光合成してるんじゃ仕方ない。無意味じゃないよね。

新潮社 週刊新潮
2016年2月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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