『十三匹の犬』
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十三匹の犬 加藤幸子 著
[レビュアー] 佐藤洋二郎(作家)
◆戦争と家族 見つめる
本書を読んで、改めて人間と犬の関係を考えてしまった。彼らはたんにペットというだけではなく、わたしたちの生活には欠かせない親密さがある。
そばにいるだけで心を癒(いや)してくれる。愛嬌(あいきょう)のある犬、威厳のある犬とさまざまだ。なおかつ番犬、警察犬、盲導犬とわたしたちの生活に密接な関係にある。彼らとの長い共生は、人間の感情指数まで高めたのではと思うことがある。
本書は、犬好きの家族と彼らの出会いと別れを描いたものだ。時代は戦中・戦後から平成にわたる。舞台は札幌・北京・東京。犬たちから見た家族の向こうには、戦争という大きな孤独を生む世界が広がっている。人間家族と一緒に生きる彼らの悲劇も例外ではない。
それらの時代と家族の歴史を、犬たちの目を通して書いた作品だが、時代が落ち着けば彼らの生活もまた落ち着く。だが時代がすぎても、わたしには戦争の影が薄まらない小説だった。そのことを深く描いていないのだが、その影が消えることはなかった。
人間は孤独だ。孤独とはさみしいということだが、戦争は恋人や家族などの最愛の者を失わせる。最も哀(かな)しみを生む行為だ。だからやってはいけないのだが、人間よりも弱い立場にある犬の目でそれを見た本書は、世界中が不穏になってきた現在への警告書のようにも読めた。
(新潮社・1944円)
<かとう・ゆきこ> 1936年生まれ。作家。著書『夢の壁』『鳥よ、人よ、甦(よみがえ)れ』など。
◆もう1冊
加藤幸子著『自然連祷』(未知谷)。自然保護運動にも携わった作家が、自然と人間との関わりを描いた連作短篇集。