半席 青山文平 著

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半席

『半席』

著者
青山, 文平, 1948-
出版社
新潮社
ISBN
9784103342335
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

半席 青山文平 著

[レビュアー] 木村行伸(文芸評論家)

◆武家の窮迫 見つめる

 太平の世を彷徨(さまよ)う、武家の男女の奥深い絆を捉えた短篇集『つまをめとらば』で今年、直木賞を受賞した青山文平。本書は氏の受賞第一作にあたる。

 主人公は江戸幕府で徒目付(かちめつけ)を務める二十六歳の御家人・片岡直人。彼の父はかつて一度だけ旗本に昇進し、将軍に御目見(おめみえ)を許されたことがあった。よって、現在片岡家は一代御目見の「半席(はんせき)」の立場にある。もし直人が上級職に就ければ「永々御目見以上(えいえいおめみえいじょう)」の家筋となり、子の代も旗本と認められるようになるのだ。

 無役の辛(つら)さが忘れられない直人は、子孫のためにも一日も早い勘定所への身上がりを望んでいた。そんな彼に、上司の内藤雅之は次々と、出世に結びつかない不可解な事件の真相究明を依頼する。

 物語は、直人の切迫した状況と高齢の武士の不審死の謎を追う表題作「半席」(作品集『約定(やくじょう)』収録作を改稿)をはじめ六つの短篇連作で紡がれている。戦のない文化年間(一八〇四~一八年)を舞台に、武家の貧富の格差や転換期の封建制の歪(ゆが)みによる悲劇等を、広範な江戸知識と推理小説的作風で言及している。時代の変化に心身が窮迫し、罪を犯す侍たち。彼らの苦しい胸中を、度量と寛容性で汲(く)み取る直人。この懲罰と救済の併存こそが本書の見所であり、あるいはそこに現代の無闇に攻撃的な風潮への否定的主張(アンチテーゼ)が込められているのかも知れない。

 (新潮社・1728円)

 <あおやま・ぶんぺい> 1948年生まれ。作家。著書『かけおちる』など。

◆もう1冊

 青山文平著『白樫(しらかし)の樹の下で』(文春文庫)。天明期の江戸を舞台に、無役の貧乏御家人を主人公にした時代小説。

中日新聞 東京新聞
2016年6月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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