【児童書】『泣いた赤おに』浜田広介作、つちだのぶこ絵
[レビュアー] 桑原聡(産経新聞社 文化部編集委員)
ユーモラスな画風で知られるベテラン絵本作家が永遠の名作に挑んだ。
村人と仲良しになりたいと望む赤おにのために、自分を悪者にして赤おにの願いをかなえ、静かに去っていった青おにの物語。望みのかなった赤おにが青おにの家を訪ねると、空き家となった家の壁に「ドコマデモ キミノ トモダチ」という言葉で締めくくられた手紙が…。自己犠牲の尊さをこれほど見事に描いた物語はない。
版元によると「小学校3年生のとき、初めてこの物語を読んで感動したつちだのぶこさんは、すぐに画用紙をやぶって絵を描きはじめ、絵本をつくった」という。それから37年の熟成期間を経て、つちださんはこの作品に挑んだ。悪かろうはずがない。生きることの悲しみと、本当の友情の温かさがじわりと伝わる作品に仕上がっている。
かつて、この作品を「未来への展望がない形式」と批判して葬り去った児童文学研究者の鳥越信氏(平成25年没)に読ませたいと思うのは、私ひとりではないはずだ。(あすなろ書房・1500円+税)