「大人」になるため、挑まなければいけない謎がある。待望の〈古典部〉最新作!〈刊行記念対談〉米澤穂信『いまさら翼といわれても』×大崎梢

対談・鼎談

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いまさら翼といわれても

『いまさら翼といわれても』

著者
米澤 穂信 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041047613
発売日
2016/11/30
価格
1,598円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

〈刊行記念対談〉米澤穂信『いまさら翼といわれても』×大崎梢

累計二〇五万部の〈古典部〉シリーズ最新作が六年ぶりに刊行の運びとなりました。米澤さんの原点となる本シリーズを、同じく「日常の謎」というジャンルでデビューした大崎 さんと読み解きます。

大きくなったら何になりたい?

米澤 私は高校生の時にはもう、将来お話を作る人になりたいと思っていたんです。大崎さんは、いかがですか。

大崎 小説は特別な人が書くものだと思っていました。でも高校生の頃からずっと暇な時に頭の中では物語を作っていたんです。結婚して子育てして、子どもに「大きくなったら何になりたい?」と訊いたら同じ質問を返されたんです。確かに結婚してお母さんになった次のことは考えていなかったと思って、本屋さんで働き始め、小説も書き始めたんです。

米澤 デビューのきっかけは、東京創元社の戸川安宣さんだったそうで。

大崎 そうなんですよ。新人賞に応募している頃、戸川さんが短篇の講座を開くからと受講生を募集していたんですよね。応募条件が短篇を一篇送るというハードルが高いもので、講座自体はお流れになっちゃったんです。でもその時に応募した短篇を戸川さんが読んでくださって、デビューすることになりました。

米澤 デビュー作は書店員が日常の謎を解く『配達あかずきん』ですよね。あの頃から文章に隙がない方だなと思っていました。

大崎 いえいえ。あれは本屋さんのお仕事をお話仕立てにしたら面白いかなと思って書いたものです。米澤さんもデビュー作『氷菓』の頃から日常の謎を書かれていますが、ジャンルは意識して選んだのですか。

米澤 いろんなものを書く中で、自分の文章は理が勝っていると感じ、それがミステリという分野に合うなと思ったんです。

古典部四人の過去と未来

大崎 その『氷菓』から始まる〈古典部〉シリーズの最新刊『いまさら翼といわれても』がいよいよ刊行ですね。私、今回この対談のお話をいただいてからシリーズを全巻読み返したんです。

米澤 それは恐れ入ります。最初の頃は若書きすぎるとお感じになったのでは……。

大崎 いえ、むしろ第一作の『氷菓』の時からすでに本領は発揮されていたのだと思って、感動しました。『王とサーカス』にも通じる地下水脈みたいなものが最初からあったんだなっていう。

米澤 ああ、ありがとうございます。日常の謎の学園ものなのでポップな小説でデビューしたと思われることもありますが、『氷菓』も学生運動が関わる話ですし、その頃から『さよなら妖精』や『王とサーカス』に通じる底流はあるつもりだったので、そう言っていただけてすごく嬉しいです。

大崎 最初に書いた時、続篇は考えていたんですか。

米澤 いいえ、当時はまったく。

大崎 そうなんですか! 一作ごとにちゃんと時間が流れて、主人公たちが成長しているじゃないですか。だからどこまで構想があったのかなと思って。

米澤 シリーズ化するとなった時に、時計の針を進めるかどうかは考えたんです。もともと何者でもなかった高校生が自分を確立していく話にしたかったので、進めていくことにしました。

大崎 古典部の四人の中では、誰が最初に人物像が固まったんですか。

米澤 プロトタイプではやはり折木奉太郎が最初で、次に千反田える、伊原摩耶花、福部里志の順番ですね。主人公の友達が最後なんです。千反田が世間ずれしていない子だったので、そこを補うような世故に長けた女の子を置こうと思い、伊原が先に出てきました。

大崎 奉太郎の「やらなくてもいいことなら、やらない」とか、千反田さんの「わたし、気になります」、里志の「データベースは答えを出さない」など、一人一人印象に残るフレーズがありますよね。私、伊原が最初、図書室で奉太郎に会った時に言う「あれ、折木じゃない。久し振りね、会いたくなかったわ」っていう台詞がすごく好きです。あれで物語が活気づきますよね。

米澤 なぜ伊原がそんな、折木を蔑視するようなことを言ったのか。その理由となる過去の出来事を今回の短篇集に書きました。

大崎 ええ、二番目に収録されている「鏡には映らない」ですね。中学生時代のエピソードがあって、「えっ、中学時代に奉太郎に彼女がいたのっ? そんなはずない」と思って(笑)。読み進めて、あ、なるほどと思いましたけど。

米澤 ふふふ。

大崎 この「鏡〜」と「連峰は晴れているか」が面白いなと思ったのは、どちらも自分の心の中の印象を修正しようと思う話なんですよね。「鏡〜」は伊原が中学生時代の折木を誤解していたかもしれないと思って調べる話だし、「連峰〜」は奉太郎が先生の気持ちを誤解していたかもしれない、と思って事実を確かめる。将来的に誰かにその思い違いを咎められることはないだろうに、自分の中でその人の像を歪めることに居心地の悪さを感じている。

米澤 あまり意識していなかったんですが、ふたつともその点が共通していますね。他人に対していったん「こういう人なんだ」と抱いた印象を自ら進んで修正するのは、人に対する優しさと興味がなければなかなかできないだろう、とは考えていましたが。

大崎 この作品集には伊原視点のものがもうひとつありますね。「わたしたちの伝説の一冊」は彼女が所属する漫画研究会の話。

米澤 最後の「いまさら翼といわれても」で伊原が迷いを振り切って漫画を描いているので、そこに至るまでのピースを書こうと思いました。今回は、登場人物一人一人が過去と未来の話をしているので、彼女にもそうさせたかったんです。

大崎 最後の表題作では、千反田さんにものすごい揺さぶりがきますね。

米澤 それについては、最初のうちから決めていました。これまで自分が上がらなくてよかった土俵に、いつの間にか上がっていることに気づく、という話です。

大崎 先が気になりますねえ……。

米澤 この短篇集の中でもっと時間を進めて書こうかとも思ったのですが、まだ高校二年生の夏休みを書いていないので、そのエピソードを飛ばすのはもったいなくて。

大崎 ということは、次の構想はもうできているわけですか。

米澤 う。まあ、どうしたものかと(笑)。

大崎 それにしてもこのシリーズは米澤さんの作品の中では珍しく、ちょっと恋愛に寄っていますよね。

米澤 えっ、そうですか?

大崎 寄ってますよ! 横でヒューヒューと言いたくなります。

米澤 なんとお答えすればよいのか……ああ、お恥ずかしい。

大崎 あ、あんまり言っちゃうと筆が鈍っちゃうかな。素直に進んでください。

事実にはリアリティがない?

米澤 分かりました(笑)。先ほど台詞の話がありましたが、私は大崎さんの『スクープのたまご』にあった「世の中は案外いい人と、実はいい人と、やっぱりいい人だけでできていればいいのに」という言葉が好きでした。「でも悲しいことに、そうじゃないんだよね」という気持ちが裏に隠されている感じがあって。

大崎 わあ、ありがとうございます。

米澤 出版社の千石社のシリーズは、すごく取材されて書いていませんか。その姿勢を見習いたいんです。

大崎 そうですね。でもたとえば『スクープのたまご』で、主人公の週刊誌記者が取材先で帰る電車がなくなってその家に泊めてもらう、というのは想像で書いたんです。そしたら後から「〇〇さんの話を聞いたんですか?」と訊かれて。

米澤 えっ、あの話こそ週刊誌の方に取材したのかと思っていました。

大崎 いやいや。むしろ実在の人をモデルにして書いたほうが「嘘くさい」と言われたりするものですよね。

米澤 確かに。私は「事実は小説より奇なり」とは思っていなくて、「事実はリアリティを無視できる」と言っています。「連峰は晴れているか」で雷に三度打たれた先生が出てきますが、実際にいるんですよ。

大崎 えー!

米澤 このシリーズは自分の学生時代にあったことを思い返して、ミステリに使えそうなものを拾って書いているので。

大崎 それにしても続きが楽しみです。その前に、別の作品の発表予定もあるのでは。

米澤 12月売り号の『ミステリーズ!』に〈小市民〉シリーズの短篇が載ります。大崎さんはいかがですか。

大崎 私は『本バスめぐりん。』という移動図書館の話を11月に東京創元社から出します。移動図書館が市内のビジネス街とか、団地とか、住宅街などいろんなところに行くという連作ミステリです。

米澤 今年、デビュー10周年だそうですね。

大崎 米澤さんは15周年でしょう。

米澤 これからも油断せずに、いいものを書いていきたいなと思っております。

大崎 私も一作ずつ、これがもう最後かもしれないと思いながら書いていて、いつも先々の展望がないので、毎回一からよく考えて、書いていきたいですね。

米澤 移動図書館の話、楽しみにしています。今日はありがとうございました。

米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)
1978年岐阜県生まれ。2001年、角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を『氷菓』で受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、14年『満願』で山本周五郎賞を受賞。『満願』、15年『王とサーカス』はそれぞれ3つの年間ミステリ・ランキングで1位となり、史上初の2年連続3冠を達成。

大崎梢(おおさき・こずえ)
東京都生まれ。2006年、『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』で作家デビュー。同シリーズほか、出版社「千石社」を舞台にした『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』など、本にまつわる作品が多く、読者の支持を得ている。近著に『誰にも探せない』『スクープのたまご』『よっつ屋根の下』がある。

取材・文|瀧井朝世  撮影|ホンゴユウジ

KADOKAWA 本の旅人
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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