『日本人の9割が知らない遺伝の真実』
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バカは死ななきゃなおらないのか?
[レビュアー] 小飼弾
「チビ」「デブ」「ブス」……こうした言葉を誰かにかけるのはおよそ文明国の社会通念上許されないことになっている。過去の漫画や文学の中でならともかく、実在の人をそう呼ぶのは「スピーチ」ではなく「ハラスメント」だというのが現代人の常識というものである。それでは「バカ」「アホ」「マヌケ」はどうか。明らかに別枠であるがなぜだろう。前者は生まれついたらそれまでであるが、後者は生まれた後でもなんとかなる、ことになっているからだ。だからこそ「キチガイ」は禁句となり、諭吉翁は学問をすゝめたのだ。
もし、その前提が間違っていたとしたら?
『日本人の9割が知らない遺伝の真実』の著者、安藤寿康は、行動遺伝学を通して、知能や性格もまた遺伝子という生まれつきに大いに左右されることを指摘する。実は著者は以前より『遺伝子の不都合な真実』(ちくま新書)や『心はどのように遺伝するか』(ブルーバックス)で同様の指摘を行なってきたのだが、火をつけたのは橘玲の『言ってはいけない』(新潮新書)だった。これまた元サイトよりもまとめサイトの方が読まれるような不都合な真実であるが、本書は研究者自身の口を通して『言ってはいけない』をはじめとする「言い過ぎ」を諌めつつ、「ではどうすべきか」を提言しているという点で著者自身のものを含めた類書の一歩先を進んでいる。「死ななきゃなおらない」のか、「使いよう」なのか、ぜひ読者自身の身体と知性でご確認を。