チューリップのプーに、のぶみ自身の人生とすべての思いを託した傑作絵本。〈刊行記念インタビュー〉のぶみ『いのちのはな』

インタビュー

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いのちのはな

『いのちのはな』

著者
のぶみ [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784041050552
発売日
2016/11/09
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

〈刊行記念インタビュー〉のぶみ『いのちのはな』

これまでに百七十冊を超える絵本を刊行。世代を超えたロングセラーがランキングを席巻しがちな絵本業界に新風を吹き込み、『ママがおばけになっちゃった!』など、話題作を世に出してきたのぶみさん。その創作の秘訣に迫りました。

「ネタを叩く」ように
何度も描き直す

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――十一月に放送された『情熱大陸』を拝見しました。のぶみさんの人生をひも解くと同時に、最新刊『いのちのはな』の創作過程を追うような作りでしたね。

のぶみ すごく丁寧に作ってくださったと感謝しています。僕、そんなに才能がある人には見えなかったでしょう?(笑)ザ・芸術家という感じではなくて、「この人、絵本を描くことを淡々と続けてきた人なんだ」ということがしっかり出ていたと思うので嬉しかったです。家族や仲間たちと「『情熱大陸』を見る会」をやりましたが、泣いてくれた人もたくさんいて……。思わず僕も泣いてしまいました。

――番組内でも紹介されていましたが、発売前の絵本を講演会などで読み聞かせ、聴衆の反応を取り入れながらブラッシュアップしていくという創作法は斬新だと思いました。

のぶみ 以前、お笑い芸人のサンドウィッチマンさんにお会いしたときに、「キングオブコントのような大舞台に立つ前には、小さな舞台で何度も何度もネタを叩くんです」とおっしゃっていたんです。「ネタを叩く」というのは、お客さんの反応を見ながら、より面白くしていくこと。以来、僕も参考にさせてもらっています。ただし、絵本でネタを叩こうとするとネタバレになってしまうから、編集者には「そんなことはしたらダメです」としょっちゅう言われました。それでもやっていましたけどね(笑)。制作過程を見せることで、発売された作品がどんなふうに修正されたかわかるので、読者の方にはいっそう楽しんでもらえるみたいです。そのおかげか、ありがたいことに発売日に売り切れることもよくあるんです。

――『いのちのはな』も同じようにネタを叩きながら作り上げた絵本なのですね。

のぶみ 三千人くらいに読み聞かせをして、何十回も描き直しました。描き直す作業は苦になるどころか、楽しくて仕方ありません。苦になるくらいなら絵本作家をやめているんじゃないかな。売れない時代が長かったので、こうしていまも続けていられることが幸せなんです。

――「作家になっても七年間売れなかった」と、本書の制作秘話にもつづってらっしゃいますよね。

のぶみ 二〇一五年に発表した『ママがおばけになっちゃった!』など、たまたま数冊は売れましたが、打率でいえば九割は失敗しているんです。だから出版社の担当者にもよく言います。「次は失敗するかもしれませんよ」と……。ただ、なるべく失敗しないためにも、何度も何度も読み聞かせをするんです。笑いが起こらなかったり、リアクションが薄かった箇所は、どんどん変えていけますからね。これは僕が七年間、かなりの回数転んだすえに身に付けた知恵です(笑)。どんなことにも近道はない、楽して成功はできないと思っています。

チューリップは
「普通」の象徴

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――『いのちのはな』の主人公は、チューリップのプーです。この設定は、どのように着想されたのでしょうか?

のぶみ プーをチューリップにした理由は、高い花でも安い花でもなく「普通」の象徴だからです。みんな普通に生きていきたいと願っているのに、ふとしたことでぐちゃぐちゃになってしまうのが人生。そんななかでもたくさんの出会いに恵まれます。たんぽぽのポポたろうは、そばにいてくれる話しやすい友だちの象徴で、バラのバーバラーは嫌いな人の象徴です。いい人ばかりではダメで、嫌いな人がいないと人間は成長できません。プーも、バーバラーがいなければ、あそこまで「意地でも咲いてやろう」とは思わなかったはずです。辛いときには「この出来事が人生で意味のあることだ」なんて決して思えません。「お願いだ、もうやめてくれ!」と思う。でも頑張って生きることは大事なことだよ、行動を起こすことをやめたらダメだよ、ということが描きたかった。

 未来がわからなくて不安になるのはみんな同じです。でもプーのように「生きていてよかった」と思えるためには、知らない人と話したり、知らない国へ行ったり、何かに挑戦し続けなければいけない。そういうことをこの絵本で伝えたいと思いました。

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――お話が終わったと思ったら続きがあって、さらに背表紙にも世界が続いて……。余韻に浸れる素敵な作品ですね。

のぶみ 読み聞かせをして修正を重ねた結果、ああいうラストになりました。いったん終わったところで、まず大人が泣いていたんです。その次まで描いたら今度は子どもたちが笑っていた。感動とボケは密接なつながりがあると確信したので、二段階オチにしたんです。

 背表紙については名作絵本にしたいという願いを込めて描きました。プーが頑張って咲かせた「命の花」は次の世代に受け継がれていくよ……と。この物語は「君のこと、ぜったいに見てくれている誰かがいるよ」という応援歌でもありますね。

「自分を超えたい」気持ちが
創作の源

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――これまでに発表された絵本は百七十冊以上。次々と新しい作品を生み出す原動力は何なのでしょう?

のぶみ 編集者のなかには「『ママがおばけになっちゃった!』のような作品を!」といって依頼してくる方もいる。でもずっと同じことをしていても成長できないし、名作は生まれないですよね? 僕には「人生をかけて描いている」という自負があるから、編集者の意見は聞いたふりをして(笑)、自分で八割くらい描いてから見せるようにしています。創作の原動力となっているのは、「自分を超えたい」という気持ちかもしれません。

――「自分を超える」とは具体的にどんなことでしょうか?

のぶみ やったことはないけど、やれそうなことってあるじゃないですか。たとえばいまからオリンピックに出たいと思ってもたぶん無理だけど、「本の旅人」に載せる新しい企画を提案するということだったら実現できそうですよね? これまで一度も提案したことがない人が企画を出したとき「自分を超えた」ってことになるんじゃないでしょうか。やれそうなことを全力でやる、ということですかね。僕、仕事に関して言えば、やらされているうちはバイトだと思うんです。自分の意志でやってこそ本当の仕事。でもね、ただただ真面目にやるということではなく、遊びにできたら最高ですよね。深刻になりすぎず、バカになったり、ふざけていたほうが面白いものが生まれると思っているので。

――楽しくチャレンジする、というようなイメージでしょうか。

のぶみ そうですね。ある記事で読んだのですが、みんなが好きなラーメンの要素を取り入れて「究極の一杯」を作ったら、たいしておいしくならなかったし、人気も出なかったらしいんです。つまり、みんなが好きというものに迎合するんじゃなく「自分が好き」「自分が面白い」と思うことをやったほうがいいと思います。ラーメンなら、半熟味玉が二十個入っているくらいのほうがインパクトありませんか? ロッキーじゃないんだから、こんなに卵ばっかり食べられないよ、みたいな(笑)。でもそっちのほうが、作る人も食べる人も楽しいじゃないですか?

 プライベートでも同じです。年齢を重ねると頭も体も固くなっていきますよね。だんだん外に出かけたくなくなるし、新しい人に会いたくなくなっていく。だからこそ心と体を柔らかく保って、固くならないように意識していないと人生がつまらなくなると思う。心が柔らかい人はイキイキしているじゃないですか。「サーフィンを始めようかな」と言っていたり、「モテたい」って言っていたり。僕自身も「いつも笑顔でいる」「人にいいことを言う」「好きなことをやりまくる」と決めています。そうしないと老いぼれてしまうので!(笑)

命は神様から
預かっているもの

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――のぶみさんは、講演会やサイン会など読者と触れ合う機会をたくさん設けていらっしゃいますよね。何か印象的な出来事はありましたか?

のぶみ 先日、「小学生に向けて命をテーマに一時間しゃべってください」というオファーを受けたんです。「命について」というのは、漠然とした大きなテーマで、困ってしまいますよね。そこで、子どもたちに「三・二・一って数えて、心臓を止められる人っている? 止められないよね。だったら命は自分のものじゃなく、神様のものかもしれないよ。預かっている命なんだから、大切に生きなきゃいけないね」という話をしました。みんな真剣に聞いてくれて、僕としてもとてもいい機会になりましたね。

 またある講演会のあとのサイン会で、二十代後半くらいの女性から「私、死にたいんです」と言われたことがあります。「え、この短い時間でそんなに重い話を?」と驚いたんですが「講演会を聞いてくれたんだよね? 俺、一生懸命しゃべったんだ。頑張ったんだよ。どうだった? 面白かった? 来てよかった? じゃあ、いまは死なないでよ。この後、死んじゃったら、俺の講演が面白くなかったみたいじゃん」と答えました。彼女はその後も、サイン会などに自作の絵本を持って来てくれるようになりました。

 みんながプーのように「生きていてよかった」と思える人生を送ってほしいですね。

のぶみ
1978年東京都生まれ。のぶみは本名で「信実」と書き、「信じていくことで実っていく」という意味。この名前が原因で小学生の時にひどいいじめに遭い、二度自殺しようとする。高校生の時には池袋連合というチーマーの総長に。その後、保育士の専門学校に通い、好きな女の子が絵本が好きと言ったので絵本を描いてるとウソをつき、そのウソを本当にさせるために絵本を描きはじめる。おもな作品に『しんかんくん うちにくる』『ママがおばけになっちゃった!』「ぼく、仮面ライダーになる!」シリーズ、「うんこちゃん」シリーズ、自伝エッセイの『「自分ルール」でいこう!』など。

取材・文|高倉優子  撮影|ホンゴユウジ  イラスト|のぶみ

KADOKAWA 本の旅人
2017年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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