将門伝説に見立てた連続殺人? 第一級パズラー

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鬼門の将軍

『鬼門の将軍』

著者
高田 崇史 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103393320
発売日
2017/02/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

見立て殺人事件の発生か?将門伝説の謎を追え!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 民俗学や古代史の知識を活かした歴史ミステリー〈QED〉シリーズで知られる高田崇史が、将門伝説の謎に挑んだ作品が本書『鬼門の将軍』である。

 巻頭に海音寺潮五郎の「小説を全部信ずるも不可、/信ぜざるも不可」という言葉が掲げられており、歴史・時代小説ファンも、充分、楽しめる作品となっている。

 発端は、京都貴船神社で民宿を経営している深河亜紀子が丑の刻参りを模した釘づけ死体で発見されたことによる。

 死体を見た亜紀子の母トメは「……まさか……ど……」と一言いうなり、脳梗塞を発症してしまうが、気のはやい読者なら、これを将門と受け取るだろう。だが、この一言がはやくもダブル・ミーニングとなっているのが心憎い。

 一方、東京では平将門の首塚の前に男の生首が転がっており、こちらは、深河医療機器の社長・深河悟、すなわち、深河亜紀子と兄妹であったことが判明。加えて京都宇治川に首なし死体が浮かび、これが深河悟のものかと思いきや、まったく別人のものであった。

 事件の謎が錯綜を極める中、ひょんなことからこの一件に関わりを持った萬願寺響子は、変わり者だが博覧強記の大学生で、従弟の漣(れん)とともに将門怨霊伝説の真偽を追うことになる。

 だが、漣の口から出てきた言葉は、将門が怨霊になる理由がない、或いは、犯人は、将門が怨霊ではないことを知らないから、伝説の見立て殺人を行ったのだ、というもの。

 そして将門伝説の謎が解明されたとき、連続殺人の真相も明らかになる。正に第一級のパズラーといえよう。

 響子の「歴史は細切れに存在しているのではなく、今現在の自分たちも同じ一枚の板の上に乗っているのだと感じた」という独白が印象に残る一巻である。いつか作者の歴史小説を読みたいものだ。

新潮社 週刊新潮
2017年3月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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