ミステリー、SF、ファンタジーに冷たい吉川英治文学賞〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

6
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大雪物語

『大雪物語』

著者
藤田 宜永 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062203371
発売日
2016/11/30
価格
1,566円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ミステリー、SF、ファンタジーに冷たい吉川英治文学賞

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 エンターテインメント系の文学賞って、実は純文学系のそれよりも少ないってご存じですか? エンタメは純文学とちがって読者が多く、その分、原稿料や印税という実質収入がしっかりあるのだから、賞与までは期待しないでね――というわけでもないんでしょうが、新しい才能を発掘する公募型新人賞はむしろ純文学系より多いのに、いわゆるベテランに与えられる賞はとても少ないんです。

 その中でもっとも知られているのは、一九三五年に創設された直木賞。次いで歴史が古く格式が高いのが、講談社が後援するかたちで一九六七年に生まれた吉川英治文学賞です。記念すべき第一回受賞者は松本清張。以下、九回までの受賞作家を順に見てみれば、山岡荘八、川口松太郎、柴田錬三郎、源氏鶏太、司馬遼太郎、水上勉、新田次郎、城山三郎と、大衆文学の大立て者が並んでおります。

 吉川英治文学賞の特徴は、(1)功労者に与えられる、(2)直木賞受賞より前にとるケースはまれ、(3)ミステリー、SF、ファンタジーに冷たい。(1)と(2)の理由ゆえに、この賞をとってしまうと、エンタメの重鎮作家は他にもらえる賞がなく、あとは文化功労者に選ばれるか、紫綬褒章、文化勲章を期待するしかありません。

 (3)のミステリーのケースは、年をとってもミステリーだけを書き続けるベテラン作家が、そもそも少ないからかもしれません。実際、三月に発表された第五十一回の受賞作、藤田宜永の連作短篇集『大雪物語』も、豪雪に見舞われた長野県軽井沢町とおぼしき土地を舞台に、作者自らの罹災体験を活かした六つの物語を収録。とはいえ、ミステリーに関しては受賞作皆無というわけではありません。

 かわいそうなのが直木賞でも一顧だにされないSFとファンタジーで、このジャンルの受賞作はゼロ。選考委員は浅田次郎、五木寛之、北方謙三、林真理子、平岩弓枝、宮城谷昌光。五木・平岩はすでに降りているものの、直木賞のそれと丸被りの人選が、文壇権力構造の歪(いびつ)さを象徴して気持ちが悪いので、筒井康隆を加えて、SF・ファンタジーの功労者にも光を当てていただけないでしょうか。

新潮社 週刊新潮
2017年4月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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