<東北の本棚>震災後の心象風景詠む

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<東北の本棚>震災後の心象風景詠む

[レビュアー] 河北新報

 河北歌壇選者を務める著者の第11歌集。2013~16年の作品から340首を選び、収録した。東日本大震災後の心象風景を歌に詠んだ。
 <栞紐の白をはさみて灯り消す書にも一夜の安寝あるべし>。書を読んだ後、床に入る。しかし、自分はなかなか寝付けない。大震災から幾年かの歳月が流れたが、著者にとってはなお最大のテーマだ。
 津波で多くの犠牲者を出した仙台市若林区の荒浜へ取材に通っている。<人の骨やもしれぬ白、砂にあり洋の聖者のごとくに屈む>。砂浜に人骨を捜す著者の姿が、そこにある。<二階ベランダの手すりは大きく屈曲のままそこからは手近くに海>。被災した荒浜小学校は、当時のままだ。
 1943年、奥州市前沢区生まれ。<傷兵の白繃帯の動き初む下り列車の三等の窓>。幼い頃、太平洋戦争から帰る傷兵や遺骨を下げる人々の姿を前沢駅で見た。「命」の現場を見たのが、その後の生き方に影響した。東北大進学で仙台市へ、宮城県内の国語教師を長く勤めた。現在は仙台郊外の団地に住む。<万の死を悼みて朝はのぼるなり桜通りの連灯沿ひを>。歌集の題はこの「連灯」による。団地の桜並木の坂道を行くとその先に青葉山、東方かなたに仙台湾がある。「歩くたびに祈りの心が湧く」と言う。
 <再稼働させたがる力は人格かそれとも神か貌が見えない>。原発再稼働問題は、どこへ向かうのだろう。<生れたてのふたつ手はのびもにやらもにやらこの世の光をにぎりはじめる>。新しい生命の誕生。その子が大人になる頃、原発被災地はどこまで復興しているのだろうか。
 短歌研究社03(3944)4822=3240円。

河北新報
2017年4月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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