“地味すぎる大乱”にスポット、異例の30万部超〈ベストセラー街道をゆく!〉

レビュー

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応仁の乱 : 戦国時代を生んだ大乱

『応仁の乱 : 戦国時代を生んだ大乱』

著者
呉座 勇一 [著]
出版社
中央公論新社
ISBN
9784121024015
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

奇を衒わず、丁寧に綴った“現場の目線”

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 たとえば名将ひしめく戦国時代。あるいは改革につぐ改革の幕政期。キャラやドラマの際立った物語は自己啓発と相性がいい。歴史に残る人物や出来事をテーマにした新書がヒットを飛ばすのはある意味、必定の理ともいえる。ところが本書には英雄も英断も出てこない。にもかかわらず、発売から半年で19刷34万部という驚愕の数字を叩き出す下剋上が起きている!――今回俎上に載せるのは呉座勇一『応仁の乱』(中公新書)。“地味すぎる大乱”に敢えてスポットライトを当てた、異色の歴史新書だ。

「新書のレーベルは“チャラい”ものと“硬い”ものに分けられるんです」。売り場担当の書店員はこう説明する。「前者は扇情的なタイトルに加え、ひと目で“おっ”と思わせる帯が巻かれている。要するに、書影がそのまま新刊平台でPOPとして機能するようデザインされているんですよ」。一方、中公新書は後者の代表格。前者のように初速で売り切ってしまう、というタイプじゃない。目下のフィーバーは誰もが予想外だったという。たしかにメディアに注目され始めてからは「スター不在」「勝者なし」「ズルズル11年」等の“残念な感じ”を押しだすシャレっ気のある広告も打たれたが、そもそも発売直後から売れ行きは上々だった。

「私たちが目指しているのはあくまでロングセラーですから。むしろ奇を衒(てら)うようなことがあっては、10年後も読み続けられるものにはならないと思っていました」(担当編集者)。著者の呉座氏は新進気鋭の歴史学者。古臭くてぼんやりしたテーマを軽妙な筆致で親しみを込めて解きほぐすスタイルで有名だが、根底にあるのは史料に対する真摯な態度、そしてなにより、実際にその時代を生きていた人々に対する深い敬意だ。

 本書は戦乱をむやみに図式化せず、日記などを基に、同時代人の目から見たリアルタイムドキュメンタリーの形で丁寧に綴っていく。つまり“現場の目線”に基づいた本なのだと考えれば─今回の件は、ヒットの鋳型に嵌められた本づくりに対する、読者からの反駁なのかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2017年5月18日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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