<東北の本棚>幻の小説100年ぶり復刻

レビュー

4
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毒盃

『毒盃』

著者
佐藤紅緑 [著]/町田久次 [監修]
出版社
論創社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784846015824
発売日
2017/01/20
価格
3,456円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>幻の小説100年ぶり復刻

[レビュアー] 河北新報

 昭和初期の人気作家、佐藤紅緑(弘前市出身)の「幻の小説」を復刻した書だ。日露戦争とその戦後を舞台に、数奇なる運命に弄(もてあそ)ばれた青年を描く。原文を新仮名遣いに改め、読みやすく。ぐいぐいと引き込まれるスリリングな展開。最後に「毒盃(どくはい)」をあおるのは誰か-。
 物語はロシアの首都・ペテルブルクにある日本料亭から始まる。料亭の養女と、店に出入りする海軍兵学校出の少尉の2人は恋仲となるが、本国の参謀長から突然の帰国命令。身重の養女を置き、先祖伝来の鮫(さめ)皮を巻いた鮫鞘(ざや)の短刀を預けて日本へ帰る。
 それから20年。成長した少尉の遺児が、日本に向かう。途中、中国に寄り、日露戦争まっただ中の旅順でスパイと間違われロシア兵に拘束される。総督府の監禁室を脱出したところ、路上に人影が。母親から受け継いだ短刀を持って満身の力を込めてグサッと突き立てると、相手は絶命。短刀を抜き取る間もなく逃走した。
 やがて日本に渡り大がかりな慈善事業を行い大成功、名声も得た。そこに鮫鞘の短刀を持った男が現れる。旅順で殺された人物は、実は日本兵だった。青年と被害者との関係は? 
 ビクトル・ユゴーの「ああ無情」を思わせる筋立てに、料亭の女性や軍人家族の間に渦巻く愛憎劇、大国に戦いを挑んだ当時の日本人の国際感覚などを余すところなく描く。大作家の真骨頂を発揮した作品だ。
 著者の紅緑は旧制一高寮歌「あゝ玉盃に花受けて」の作詞者として知られる。明治後期、河北新報の文芸家庭欄主筆も務めた。
 校訂の町田久次さんは1948年福島県会津美里町生まれ、会津若松市在住。元福島民友記者。社史の調査で、紅緑が一時、福島民友の主筆もしており1915(大正4)年、同紙に131回にわたって「毒盃」を連載したことを知る。全集などにはなく、百年ぶりに世に出た。
 論創社03(3264)5254=3456円。

河北新報
2017年5月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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