<東北の本棚>理不尽跳ね返し救出劇

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

駒姫

『駒姫』

著者
武内 涼 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103506416
発売日
2017/01/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>理不尽跳ね返し救出劇

[レビュアー] 河北新報

 駒姫-。「羽州の狐(きつね)」の異名もあった出羽の知将最上義光(よしあき)の娘だ。東国一の美女であった。わずか15歳の身に義なき処刑という悲劇が待ち受ける。最高権力者豊臣秀吉の命とはいえ、こんな理不尽が、無慈悲がまかり通っていいはずはない。義光や家来は駒姫救出に全知全能を傾ける。本書は、史実を基にした歴史小説だ。
 文禄4(1595)年。駒姫らは北国街道を抜け京へ。秀吉のおいである関白の秀次に見初められ、側室として聚楽第(じゅらくだい)に輿(こし)入れするためだ。義光は渋ったが再三乞われて縁談を進めた。
 きな臭い頃であった。男子を幼くして亡くした秀吉は、関白を秀次に譲ったものの太閤として実権を握ったまま。そこに秀吉の側室淀君との間にお拾(ひろい)(後の秀頼)が産まれたのがこの2年前。わが子に政権を、と状況は一変した。
 駒姫は聚楽第に入ったが秀次とはお目見えせず。5日後、秀次は高野山に追われ、その後謀反の疑いをかけられ切腹する。
 遺された秀次の側室ら39人は捕らえられる。駒姫とお付きの御物師(おものし)(針仕事専門の侍女)おこちゃの2人は秀次に会っていないとして、秀次の正室らは2人を逃がすよう京都所司代の手勢に頼む。が、秀吉の出した答えは、武家の習わしをも超えた、全員打ち首の刑。
 あまりの非道に怒る最上家。直訴もかなわず、家臣や軍師らの駒姫救出に向けた闘いが始まる。働き掛けは、秀吉の侍医施薬院全宗へ、秀吉の正室北政所へ、そして徳川家康へ、と。秀吉を翻意させ、京都・三条河原に設けられた駒姫らの処刑場に早馬は間に合うのか-。
 著者は1978年群馬県生まれ。昨年「この時代小説がすごい」で第1位となった気鋭。巧みな構成と筆致によって、登場人物がまざまざと動きだす。小袖の模様、金糸銀糸の唐織、西陣の呉服、側室の口紅など要所に浮かぶ色使いも読ませる。他の著書に「秀吉を討て」など。
 新潮社03(3266)5111=1944円。

河北新報
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク