『会議を変えるワンフレーズ』
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会議のファシリテーションに使えるフレーズ集
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
退屈な会議を少しでもまっとうなものにしたいという思いは、すべてのビジネスパーソンに共通するもの。そこで近年脚光を浴びている「ファシリテーション」のスキルに注目すべきだと主張するのは、『【実用のことば】会議を変えるワンフレーズ』(堀 公俊著、朝日新聞出版)の著者。日本ファシリテーション協会フェローとして、さまざまな分野でファシリテーション活動を展開している人物です。
会議が上手くいかない最大の要因は、みんなの意見が会議の中身(コンテンツ:内容、意見、アイデア、結論)に集中してしまい、進め方(プロセス:論点、流れ、討議方法、関係づくり)を考えるのを忘れてしまっているからです。
料理のたとえで言えば、「どんな料理をつくるか?」ばかり考えて、「どうやったら料理ができるか?」が疎(おろそ)かになっているわけです。コンテンツとプロセスを上手くかけ合わせないと、美味しい料理ができません。
であれば、自分のコンテンツは一旦脇に置き、プロセスに専念できる人を置いておこう。その方に、みんなが持つコンテンツを活かした素晴らしい料理ができるよう、導いていてもらえばよい。それが「ファシリテーター」の仕事です。(「はじめに」より)
ファシリテーターとは「進行役」という意味ですが、会議においても適切な人にファシリテーターを任せ、自身はファシリテーターシップを発揮する側に回ることを著者は勧めています。たとえば、じっと話し合いを見守り、ここぞというところで、「そもそも○○は議論しなくてもいいの?」と大所高所から“目から鱗の投げかけ”をすることが重要だというのです。
そのような考え方を軸に、会議の流れ(起承転結)に沿って、適切にプロセスを舵取りするための200種もの実用フレーズを紹介したのが本書。すべて、著者のファシリテーターとしての実践に基づいて培われたものなのだそうです。
きょうは第1章「起 歩調を合わせ、参加を促すフレーズ」から、いくつかをピックアップしてみたいと思います。
プロセスを共有する
会議室に人が集まってきて全員が揃うと、「では、そろそろはじめましょうか。まず、いま配った資料1を見てほしいのですが…」と説明をはじめる人がいますが、それは最悪のスタートの切り方だと著者は指摘しています。
なぜなら、「きょう、どのように会議を進めていくか?」がわからないと、参加者は説明を聞く心づもりができないから。それどころか、説明された内容に対して、「なにをどこまで意見を出してよいのか」もわからないでしょう。
そのため、議論がはじまってもチグハグになって収拾がつかなくなることに。あとになって、「そもそも、きょうはなにをするのでしたっけ?」と間抜けな意見が出る恐れすらあるといいます。そこで重要なのが、「プロセス(やり方)を決めてからコンテンツ(中身)に入る」こと。大半の人はコンテンツに興味があり、どうしても先走ってコンテンツに入ろうとするもの。それをプロセスに引き戻すのがファシリテーターの仕事なのだといいます。
基本フレーズ 議論に入る前に、今日の進め方を教えてもらえませんか?
応用フレーズ 先に、進め方を決めておくほうがよくありませんか?
(23ページより)
ちなみにこれは、議論が紛糾した場合も同じ。いったん議論を止めて、「どうやって収拾を図るのか」、まずはプロセスを話し合うべきだというのです。そうしない限り、いくらやっても決着がつかないわけです。
応用フレーズ ここでもう一度、どう進めるかを考えてみませんか?
(24ページより)
なお会議の進め方を決めるには、3とおりのやり方があるそうです。まず1つ目は、ファシリテーターがあらかじめ考えてきた進め方を提案する方法。もっとも一般的なやり方であり、そのためにこそファシリテーターがいるわけです。
ここで大切なのは、一方通行の説明で終わらせることなく、「○○という進め方でいいですね?」と同意を取ること。プロセスの納得がないのに議論に入っても、結論に納得してもらえないからです。そこで必ず全員の同意を確認し、異論があればその場で修正をかけていくことが大切。
2つ目は、ファシリテーターから進め方の選択肢を提示し、参加者に選んでもらう方法。「一般的には、現状の確認から入るのでしょうが、目的から議論する方法もあり、あるいはいきなりアイデアを出す手も。どれにします?」というやり方です。
そして3つ目は、「きょうはどう進めたらよいですか?」と参加者に丸投げをして、ゼロから話し合って決める方法。これは紛糾しそうな会議でよく使われる方法で、時間はかかるものの、プロセスへの納得度は最大となるのだそうです。
いずれにしても、プロセスはファシリテーターが勝手に決めるものではなく、参加者の総意で決めるもの。メンバー一人ひとりに、プロセスに対し経験を出す権利があるため、遠慮をする必要がないということです。
ときには、みんながプロセスへの意見を出しすぎて、進め方が決まらない場合もあるでしょう。自分が望む結論に向け、主導権争いがはじまるわけです。ファシリテーターが仲を取り持とうとしてもなかなか折り合いがつかなくなるので、そんなときには次のように、誰かがファシリテーターに助け舟を出してあげると効果的。
応用フレーズ とりあえず、ファシリテーターが言うやり方で始めてみて、後でもう一度進め方を話し合いませんか?
(25ページより)
「議論をどう進めたらよいか?」は想像の世界での話であり、やってみないとわからないことも。あるいは、やってから不具合が出ることもあるでしょう。机上の空論をいつまでも続けるよりは、やってから修正したほうが少なくないといいます。
それに、会議の冒頭では気合が入りすぎるもの。お互いの出方もわからないため、もめやすくなるわけです。「とりあえず」でスタートして、そのまま最後まで進む場合も珍しくないといいます。つまり、いい加減なように見えて、実は巧妙なテクニックなのだと著者は解説しています。(22ページより)
ゴールを設定する
ある日、課長に総務部から会議招集通知が届きました。議題は、「環境問題の件」。そこで「どうせ新たな取り組みの説明があるだけだろう」と、「話を聞くだけでいいから」と若手を代理で出すことに。ところが実際には、全社を挙げての環境対策のさまざまな取り組みに対し、担当する部署を割り振る場でした。部下は事情がわからないまま、いちばん損な役まわりを押し付けられてしまったわけです。
このように、日本では会議のテーマを「環境問題の件」「新規採用に関して」「来季の目標について」などと表すのが一般的。しかし、この「件」「関して」「ついて」が曲者なのだと著者はいいます。なぜなら会議のテーマがわかっても、ゴール(目標)がわからないから。
ゴールとは話し合いが目指す到達点であり、つまりは「どこまで詰めるのか?」「なにを決めるのか?」「成果はなんなのか?」ということ。そこで少なくとも、会議招集通知を見ればゴールがわかるようにしておくべきだといいます。
また、会議の冒頭で必ずゴールを全員で確認することも大切。ファシリテーターからの説明がなければ、「確認したいのですが」と、こちらから尋ねるべき。
基本フレーズ 今日は、何をどこまでつめるのでしょうか?
応用フレーズ 終わった時に、何が決まっていたらよいのですか?
(28ページより)
ピントはずれの発言を防ぐため、自分が理解していても、わかっていない人がいそうなら、とぼけて質問するようにすることも重要。さらによいのは、成果(アウトプット)の形を尋ねること。
応用フレーズ なるほど、今日のゴールは環境問題の取り組み方針を策定することですね。最終的にどんな風にまとめるのですか?
(28ページより)
方針といっても、人によってイメージは異なるもの。だからこそ、あらかじめ共有しておけば、参加者のベクトルが揃いやすくなるということ。
そして効果的な話し合いをするには、適切なゴールを設定することが重要。そしてみんなの力を引き出すためには、少し背伸び(ストレッチ)したゴールを設定するのがコツだそうです。ただし無茶なゴール設定は禁物。いうまでもなく脱落者を生んだり、空中分解する恐れがあるから。
どうしても無理をする場合は、みんなの覚悟を確かめておくべき。それもゴールの一種であり、特に紛糾しそうな話し合いでは重要な確認となるのだといいます。
応用フレーズ 何としても17時までに決着をつけることにしませんか?
(28ページより)
このように、ワンフレーズが大きな力を持ちうるわけです。(26ページより)
会議で起こりがちなシーンに応じて解説されているため、とても実践的な内容。また、どこからでも読み進めることができるので、空いた時間を有効利用できるはず。会議を改善したい人は、手の届くところに置いておきたい1冊です。