『か「」く「」し「」ご「」と「』
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SNS世代にリアルに響く日常の「目線」
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
中規模書店なんかに行くとよく思うのは、“意外と10代のお客さんが多いなあ”ってことだ。それもそのはず、ネットで手数料なしで買い物するにはクレジットカードが必要になる。だからお小遣いで本を買う中高生は書店に足を運ぶ。
さて、今回取り上げるのは、驚きの書店購入率を誇る作家・住野よる。新作『か「」く「」し「」ご「」と「』は発売後2カ月で23万部、現在4刷である。デビュー作、通称「キミスイ」こと『君の膵臓をたべたい』がいきなり2016年の年間ベストセラー総合5位にランクイン、文芸書部門で1位(トーハン調べ)をもぎとったことでも記憶に新しい。同年の本屋大賞でも2位に輝くなど熱烈な支持を受けているが、購入者の半数以上が10代、20代だという。
「住野さんの作品は、徹底的に読者のことを考えて作られているんです」――担当編集者は人気の秘密についてこう説明する。「すべての作品に“どんでん返し”が用意されている点に加え、台詞が多用されているのでテンポよく読み進められる。細かい伏線がきっちり回収される点も読後の爽快感につながっているのでは」。
加えてミステリアスなタイトルも特徴のひとつ。前述のキミスイも衝撃的なタイトルだが、今作も意味深……というか、まず読み方がわからない! え、この「」、いったい何?――実際に読んでみればその意味はわかる仕掛けになっている。そして「」の中に詰まっているのは、誰もが経験したことのある心の揺らぎだ。5人のクラスメイトがそれぞれに自意識を持て余しながら織りなす日常は、SNS世代にはとりわけリアルに響くそう。「“私たちのことを書いてくれている!”という気持ちになれるとする感想が多いです」(同)。
ちなみにソフトカバーにイラストが描かれた装丁、というスタイルは、版元を変えてもずっと踏襲されている。「ファンの方々にとっては出版社の違いなんて関係ありませんから。“住野さんの作品だ!”とひと目でわかるようなつくりを心がけました」(同)――やっぱりここでも読者目線というわけだ。