万城目学×京極夏彦「消えゆくものから生まれた物語」〈『パーマネント神喜劇』刊行記念対談〉

対談・鼎談

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パーマネント神喜劇

『パーマネント神喜劇』

著者
万城目 学 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103360124
発売日
2017/06/22
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

消えゆくものから生まれた物語

妖怪の消滅

万城目 新刊を書くことになったきっかけをちょっと聞いていただけますか。かなりむかし、二〇〇〇年の頃だったかと思うのですが、京極さんが「ニュースステーション」に出ていらっしゃいまして。しかも、ワンコーナーではなく、ずっとキャスターの隣に座っているという。

京極 そういえば一回だけ出ましたね。ニュース番組って、当たり前だけど、どんな事件が起きるかは事前に分からないから、いくら前もって打合せしてもですね、結局その日起きた事件に対してコメントをするしかないという、厄介な話で。

万城目 あの日は何か事件があったんでしたっけ?

京極 特に起きなかったと思いますね。確か、映画の「長崎ぶらぶら節」ロケ地から生中継が入ったんです。「主演の吉永小百合さんに何かお話しありますか」と聞かれて、「別に」って、どこかの女優さんみたいなことを言いました(笑)。

万城目 解説の方が『嗤う伊右衛門』を読んだら夢中になって電車を乗り過ごしたという話をしたのですが、京極さんは表情をぴくりとも動かさずに「ああ、そうですか」って。

京極 実に僕らしいですが、「長崎ぶらぶら節」のことしか覚えてないですね。

万城目 僕はその時に、ああ、これが京極さんなんだと思いながら観ていました。その後、長野県のダムのニュースが流れて、キャスターの方が「どう思われますか」と質問したら、「ダムができると妖怪が死ぬ」とお答えになったんですよね。

京極 そんなこと言ってましたか?

万城目 続けて、「ダムができたら、そこにある村が沈んで、住んでいた人が散らばってしまう。そうすると、みんなの記憶や歴史が消えるから、そこにいた妖怪もいなくなるんです」って仰ったんですよ。

京極 それは全く覚えていないけど、確かにそういうようなことを僕はよく言いますね。

万城目 衝撃を受けました。今だったら民俗学的アプローチとして珍しくない見方かもしれませんが、僕は当時そんなことを思ったこともありませんでしたから。「人がいなくなると妖怪が消える」というのを、それから十七年ずっと覚えていました。今回の『パーマネント神喜劇』の底流にはあの時の京極さんの発言があるんです。作中でも神様に「人々がいるから神がいる」と繰り返し言わせていたり。

京極 いや、それはびっくりです。何でも言ってみるもんですね。それにしてもあの神様はいいですね。

万城目 ありがとうございます。

京極 僕の小説の中で唯一お化けが出て来る『豆腐小僧双六道中』というシリーズがあるんですが、出て来るといっても擬人化した概念という扱いなので、存在はしないんです。連中は概念なので、忘れられると消滅してしまう。記録と記憶が拠りどころですね。たとえ記録がなくても、人間が覚えている限りは出て来られるんです。たしかに神様も同じですね。万城目さんの新作は、神様ライフが今風になっているところが良かったですね。

万城目 神様とはいえ、今を生きてるんだから、だんだんそうなるかなと思いまして。

京極 縁結びの神様がどこか格好悪いのも好きですね。

万城目 派手な服を着ていて、みんながそれはどうなのって思うけど、本人は俺はイケてると思ってるんですよね。

京極 大事なことだから二度言う、すると言霊が発動するとか、細かい設定も面白かったです。最後はどうまとめるのかなと思いましたけど。

万城目 ずっと担当の方に言ってたんです。「アルマゲドン」みたいにしたいって。

京極 「アルマゲドン」?

万城目 あの作品のブルース・ウィリスみたいに、おっさんが最後頑張って、エアロスミスがかかるイメージですね。ただ小説では、すごく頑張るんだけども、実は――というラストにしたいと話してました。

京極 ははは、それで神様もちょっとその気になったのね。一時だけど。「おっ、こいつ頑張るじゃん」と思いましたよ。そういう怒濤展開を経て、サインで終わるという。

万城目 そうなんですよ。

京極 それだけキャラ立ちしてるのに、神キャラ小説じゃなくて、ちゃんと人間のほうが本筋ではある。神様小説としては破格に面白かったです。

万城目 感激です。

京極 もうちょっと続いて欲しいような気もしましたけどね。万城目さんの小説はいい意味での酩酊感がありますからね。

万城目 もっと読んでもいいという感じですか?

京極 腹八分目で終わるところがいいのかもしれないけれど。終わらんでもいいよという感じ。でも終わっちゃうんですよ。だから続編という手もありますね。まあ作者が書きたくないというなら無理でしょうけど、その気になった時にはお願いします。『ホルモー六景』みたいな形でもいいですね。

新潮社 波
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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