『歌丸ばなし』
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日々の研鑽を忘れない先達 その言葉に背すじが伸びる
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
落語界の宝の一人、桂歌丸師の落語集です。『井戸の茶碗』『おすわどん』『鍋草履』『紙入れ』『壺算』『つる』『竹の水仙』『紺屋高尾』と8席収められています。
珍らしい噺、色っぽい噺、十八番(おはこ)とありますが、どれがそれかという楽しみがあります。「まくら」からご当人の解説までじっくりお読み下さい。
まくらで歌丸師は自身の近況を語っています。
「あたくしの鼻の周りがきらきら光ってるんで、歌丸水っ洟(ぱな)を垂らしてんじゃないかとお思いの方がいらっしゃるかわかりませんが、実は酸素吸入の管が入っておりまして……」
と、このところの入退院をネタにしています。ご安心を。
「誤嚥(ごえん)性の肺炎という診断を受けました。ハイエンな騒ぎになって……、あんまりうまい洒落(しゃれ)じゃあないですね。これはあたくしの言う洒落じゃないです。黄色いラーメン屋が言う洒落です」
客席のドッと笑う声が聞こえるようです。黄色いラーメン屋が林家木久扇師であることをほとんどの客は知っているのですから。
それからサラリと本ネタに入るわけですが、以前私が聞いた時と細部が微妙に異なっている個所があります。まえがきやあとがきで述べていますが、あそこをこうしたらもっとよくなると、日々研鑽を忘れないのです。先達のこういう姿勢に接すると、背すじが伸びるようです。
「『笑点』のおかげで顔が知られるようになったけれど、大喜利の歌丸ではなく、落語家歌丸としてきちんと落語をやりたい」、そう決心したのが37歳、地元横浜の三吉(みよし)演芸場でオールネタ下ろしの独演会を始めます。テレビとの二足のワラジですが「笑点50周年」を機として落語一本に絞ります。そして現在、健康と相談しつつの高座なのです。
我が師談志は『笑点』の初代司会者で、歌丸師とは盟友です。「あの頃から歌さんには助けられ通しだ」と談志がしみじみ言いました。